8・幽霊
ツムツムは動物学者だった。そんな彼は最近、新種の動物を発見した。もちろん彼は、新種の動物を調査して学会へ発表するつもりだった。
「しかし困った。あれだけ獰猛だと近づけやしない。どうしたものか……」
悩んだ挙句、ツムツムは仲のいい科学者に電話をかけた。
「あぁもしもし? ツムツムだ。久しぶりだなイユイユ。どうだね研究の方は?」
「あぁ、実は新薬を開発してね……」
「ほぉ、新薬! どんなものなんだい?」
「他言はよしてくれよ? とてつもない新薬なんだからな」
「ははっ、心配するな! 僕と君の仲だろ?」
「わかったよ。それで、僕が開発した新薬はだね、人間の意識だけを体内から取り出せる薬なんだ」
「んーっと、つまり幽体離脱みたいなことかい?」
「さすが! その通りだよ!」
「とか何とか言って、ただの毒薬なんじゃないのか?」
「違うって! ちゃんとした薬だよ! 自分の体で効果のほどもしっかりと確かめたしたね」
「へぇー、幽体離脱しているときはどういった感じなんだい?」
「薬を飲めば一時的に幽霊になれる、まぁそんなふうにイメージしてくれればいい」
「ほぉ。移動は出来るのかい?」
「ん? 自由に行き来できるよ。壁などの物体もすり抜けられるし、人の目にも映らない。だが、悪用されないように幽霊状態時にすり抜けられないバリアなども製作中だよ」
話を聞いていたツムツムはあることを思いついた。
「なぁ…… その薬を少しだけ貸してくれないか?」
「えっ? ダメダメ! いくら君とはいえそれはダメだよ! 君のことだ、行き詰った研究の羽のばしかなんかに使う気だろ?」
「あっいや…… 今回は違うんだよ! 僕も新しい発見をしてね」
「新しい発見? うむ、聞かせてくれ」
「僕が発見したのは新しい動物でね。ネコ科の大型動物なんだが、とても獰猛で近づけないんだ。装甲車にでも乗らないかぎりね。だから研究しようにも出来ないんだよ」
「なるほど、それで僕の新薬をどこかに売りつけて、そのお金で装甲車でも買うつもりかい?」
「そうそう…… って違うよ! なんで遠回りするんだよ。そうじゃなくて幽体離脱をして近づこうと……」
「あぁ、なるほど、そういうことなら構わないよ。僕も、もう少し検証したかったからね。でも少し時間をくれないか? 薬の効能時間が短いんだ。効能時間を延ばすように改良してみるから」
それから、二ヵ月後、使い勝手が数段増した薬が完成した。早速ツムツムはジャングルへと向かった。
「それにしても大丈夫かいイユイユ? 君までついてきて? 新種の動物はかなり危険なんだぞ?」
「クエスチョンマークを付けすぎだよ。心配いらないさ、なんたって僕の新薬があるからね。何度もテストをしてようやく出来たんだ。しかし、万が一って事がある。何か問題が起きたときに開発者の僕がいたほうが良いと思ってさ」
助手12人、ガイド4人、博士2人からなる計18人は、ジャングルの奥地に設置された小屋に到着した。
「よし助手の皆、データ採取の準備に取り掛かってくれ。ツムツムも準備を頼む」
助手達は大急ぎで準備に取り掛かった。様々な機械が設置され、二つの簡易ベッドも用意された。
「さぁ、この薬を飲んで横になってくれ」
イユイユはピンク色の液体の入ったビンを取り出した。
「す、すごい色だな……」
「あぁ、これにはモモイロト液が含まれているからね」
イユイユは躊躇せずに液体を飲み干した。ツムツムは、液体を不安と一緒に飲み干した。
「ん? 意外とイケるなぁ。甘酸っぱくて爽やかな味がする」
「あぁ、これにはアノヒノ系ハツコイ酸も含まれているからね」
「…………いろいろな成分があるんだな」
二人そろって簡易ベッドに横になり、互いの研究の話をしていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
「んー、イユイユ、なんだか体が軽くなってきた……」
「見てごらんよ、下を」
イユイユの声にしたがってツムツムは足元を見てみた。
「うわっ! あ、あれは俺だ! おっ! イユイユもいる!」
「ははっ、成功したんだよ幽体離脱に!」
「いやー、イユイユの研究はすごいな……」
「いやいや…… まぁでもすごいか…… だがツムツム、君の研究も今日ですごいことになるんじゃないか?」
「え? …あぁそうだった、では早速ジャングルに向かおう」
そう言うと小屋の壁をすり抜け、ジャングルの更に奥地へと向かった。
「うーん。かれこれ二時間、全く見つからないな……」
「いやぁ申し訳ないなぁ。こんなはずじゃ……」
「何を言ってるんだツムツム。発見とは時間がかかるものだよ。水溶性ラレルを発見したゼルゼル博士なんかは親子三代での発見だったじゃないか!」
「そうだな、弱音なんて吐いてられないな!」
「そうだ、その意気だ!」
二人の間に以前よりも熱く強い友情が芽生えてから更に二時間が経過したそのとき、遂に追いかけていた動物を発見した。
「あっ! いたぞイユイユ!!」
大きな岩のかげを指差しながらツムツムは叫んだ。
「あれが………」
「そうだ僕の研究しているのがあの動物だよ」
「それにしてもすごいな! キリンのようでもあるし象のようでもある。だが胴体はどう見ても亀そのものだ」
「あぁ、あれでネコ科だからね、不思議な生物だよ」
二人は幽霊状態の特性をフル活用してその動物を調べた。
「ツムツム、今日はこの辺りにしようか」
「あぁそうだな、そろそろ帰るか」
「ところで名前は決めたのかい?」
「あぁ、最初は自分の名前をつけようかと思っていたんだが「イユツムカメモドキ」とすることにしたよ」
「えっ?」
「僕と君の友情の証と思ってね」
「奇遇だな! 僕もあの新薬の名前を「ツムイユ離脱液」にしようかと思っていたんだ」
「オイオイ、その名前じゃ何から離脱するかわからないじゃないか!」
「それもそうだな、はははっ」
小屋までの道のりを二人は楽しく過ごした。
「ふぅ、ようやく小屋が見えてきた」
「あぁ、幽霊だから肉体的な疲れは無いが、精神的な疲れはあるんだよ」
そんなことを言っていた二人はあるものを見つけて驚いた。
「あっ、あれはイユツムカメモドキじゃないか?」
「本当だ。まさかもう一つの群れがいたとは……」
「しかも僕たちが出発した方向と逆とはねぇ……」
「まっ、明日の調査が楽になる」
「そうだな」
二人は小屋の壁をすり抜け中に入った。
「あっ!」
「なんということだ……」
二人は唖然とした。助手、ガイドたちが全員血だらけになって倒れていた。
「こ、これは動物の牙のあとだ……」
「ということは今さっきみたイユツムカメモドキの仕業か?」
助手、ガイドたちの無残な姿。だがもっと無残なものがあった。
「あああああぁあぁぁ!」
「どうしたツムツム!」
「僕たちも殺されてる……」
「え!?」
簡易ベッドの上には二人が横たわっていた。だが、それは明らかに生きてはいなかった。
「どうしてくれるんだ! これじゃ元に戻れないじゃないか!」
「仕方ないだろう! こんな事になるとは思わなかったんだから!」
「仕方ないだと! ふざけるな!」
「何だと! もう一度言ってみろ!」
二人は大喧嘩を始めてしまった。
「何がイユツムカメモドキだ! 博士モドキめ!」
「うるさい! ツムイユ離脱剤だぁ!? 僕は君と離脱したいよ!」
ケンカというものは勝っても負けても疲れるものである。翌日には体中が痛い。まぁ二人には関係のないことだが。
「もういい、君など知らないよ!」
「それはこっちの台詞だ。君なんかと二度と会うもんか!」
二人は小屋の壁をすり抜け別々の方向に飛び去っていった。まさに死別である。そして互いに分かれた後、すぐにこう言った。
「イユイユめ……」
「ツムツムめ……」
「化けて出てやる!」
「化けて出てやる!」
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