第35話 夜盗

 部屋は窓からの月明かりのみで薄暗い。てかあれって月だっけ?いやそんなこと今はどうでもいい。


「ウルセェな、黙れよ」

「はいっ、すみません」


 筋肉質だが、背は僕と同じくらいだろうか。まるでドワーフのように小太り、いやそれも筋肉か。僕の両腕はドワーフの両腕に抑えられている。振り解こうとしたが、体が全く動かない。というか動かそうとすると痛い。めちゃくちゃ痛い。筋肉痛だ。ということは、金縛りも間違いじゃなかったのかよ!


「動くな!」

「はいっ、すみません」

「お前のあの武器、どうやって使うんだ?」

「武器?スパムトのことですか?」

「何言ってるかわかんねぇな。」


 会話が噛み合わない。

 ドワーフ男は顎でスパムトの方角を二度指した。あ、翻訳。


「スパムト!翻訳!」

「あ、はーい。了解でーす。…『##?###########?』」



 というか、なんで相手の言葉がわかったんだろうか。その疑問が頭に浮かんだ後、”頭蓋骨から響くように”声が聞こえた。


(もしもし…今あなたの脳内に直接語りかけています…)


 というか、スパムトの声じゃないか!2丁のスパムトのうち、ひとつ目の方の声だ。どういうことだ?


(あなたの頭の中のチップを利用して、翻訳機能をバージョンアップしました…。これからは私のスピーカーでなく、あなたの頭に直接、翻訳が出力されます…)


 なんだその喋り方は?最初の一丁にしては丁寧すぎる。


(あ、やっぱ違和感ありました?あなたの右手にズキュンと収まるライちゃんこと、ライトです。よろしくです)


 勝手に自分に名前をつけるな!


(ちなみに、あなたの左手に収まるもう一つの彼女は、レフちゃんことレフトです!)


 勝手にもう一丁の銃に名前をつけるな!

 そのレフちゃんとやらはなんで会話に参加してこないんだ?


(眠いみたいです〜。この世界は学ぶことが多くて疲れちゃいますからね〜)


 くそッ。両方ともポンコツか!?


(こんな便利に成長してるのに!ポンコツはあんまりですよ〜😭)


 そうだ!早く助けろ!てかなんで助けなかった!?


(命令や質問は、なるべく一つでお願いします!前者は棚にあるので無理です。後者は私たち、ただの銃なので無理でした)


 こんなに会話して、ドワーフ男がキレるんじゃないか!?


(ところがどっこい。この間、わずか1秒であった…)


 勝手にナレーションするな!

 とにかく撃て!


(え、棚にあるんで、当たらないですよ)


 いいから撃て!


 随分と長く喋ったと思ったが、それは頭の中だけの話で、次のドワーフの言葉は正しく次の発言のようだった。


「そうだ。銃のことだ。使い方をじっくり教え…」


 『ばんッ』という発砲音でドワーフの言葉はかき消された。

 再び、頭の中から声が聞こえる。


(おええええええええぇええええええええ!!!!気持ち悪いですぅ〜。今私、くるくる回っています〜)


 マグナム型の銃は発砲した衝撃でくるくる回っている。棚の上で、水平に円を描いて。そう、”回っている”のが良い。

 頭の中で、念じた。


—照準にドワーフ男を捉えた瞬間もう一度発砲しろ

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