第三九話 言いたいことは三つ!
「ここにいるんだ!」
ソウヤは目覚めた。
白き部屋で、砕け散った自我を、自己を識により再結合して復活した。
自己が存在を実感することは確かなこと。
自我が存在を肯定することは確かなこと。
今に可能性を感じるのならば、思考せよ。
それが識による全ての始まりだと。
「……そうだ。おれは今ここにいる。今を生きているんだ!」
ここにいることこそが本物と偽物を超えた確かな真実だから。
何度もその言葉を反芻して、両手をきつく握り締める。
力強く頷けば、次いで力強く灰色狼の名を叫んだ。
「ロボぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
転送コード転写。
白き部屋――否、サーバールームから格納庫への転送ルートを確保。
〈ロボ〉のメモリユニットに〈模倣体〉たるソウヤを転送する。
今なら理解し受け入れることができる。
戦闘で損失したハードウェアの代わりとしてユニットを追加、〈模倣体〉をダウンロードすることでその動作をカバーしていた。
思考操縦していたのと錯覚していたのはカグヤにより組まれたシステムのせいであり、一体感を感じていたのは自らの体で動かしていたから。
キグルミを着ているようなもの。
一切気にする必要はない。
『そ、そんな転送コードが奪われるなんて!』
カグヤがコードを奪われたことにたじろいでいるが、ソウヤは構わず転送を続ける。
現状を確認。〈シートン〉は推進部を損壊、艦体は不時着しており、敵DT群の砲撃に曝されている。
〈フィンブル・リペア〉は修復作業を行おうと砲撃の嵐により一向に進まない。
サクラは〈ブランカ〉の損壊率が高い中、奮闘しているが、動くたびに装甲の枝分かれは侵食度を増し、金属片を零れ落としている。
既に崩壊レベルに達していようと猛攻は止まらず、それは即ち、自ら死へと踏み込んでいる有様であった。
今のソウヤが為すべき事は敵の殲滅でも何でもない。
サクラを助けだすこと。
最後の希望を守ること……――断じて否!
そんな良い子ちゃんぶった理由はクソ喰らえ。
ゴミ溜めにでも捨てておけ。
あまりにも陳腐すぎる理由を執筆する脚本家は喰いっぱぐれて業界から忘れ去られろ。
ソウヤにはサクラに返さねばならぬことが三つある。
一つ、真実を隠し続け、自我崩壊にまで追い込んでくれたこと。
「ありがとう。お陰で自己という認識を再確認できた」
二つ、初対面時に顔面が歪むほどの蹴りを入れてくれたこと。
「ありがとう。お陰で黒いパンツを見ることができた。だが個人的には白が好みだ」
最後の三つ……――ふざけるなっ!
ただ一人で大群と戦うことがソウヤを騙し、利用してきた咎と思い込んでいるのなら言ってやる。
「死に価値はなんてない。無価値だ。価値などありはしないんだ!」
幾重にも死を体験し続けたソウヤだからこそはっきり言える。
ましてや命をかけて死力を尽くすことが価値ある咎だと思い込んでいるのならば、蹴りこまれた報復ついでにその思い上がりを完膚なきまでに修正してやる。
「〈ロボ〉出るぞ!」
転送し終えたソウヤは、今までにない〈ロボ〉との一体感に高揚し大穴の開いた格納庫より飛び出した。
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