第三七話 我思えず、故に我なし

 ――西暦三九五二年一一月二五日、〇〇〇死亡。


 建設現場横を取り掛かった際、頭上より落下した幾本の鉄骨の間に挟まれ圧死。

 救出後、緊急搬送されるも治療の甲斐なく一六の短き生涯を終える。

 警察は作業員が機材運搬の安全確認を怠ったと見て建設会社を強制捜査。

 だが、いくら原因が解明されようと失った生命は戻らない。

 永遠に、絶対に――


 幾度となく繰り返されてきた死。

 無自覚ながら、無意識ながら検分により重ねられたことで違和感を持ち始めた日々。

〈地球のマザー〉により修正を受け、忘れたことさえ忘れていた。

 だが〈アラヤ領域〉により全てを知ってしまった。

 ○○○がデータに自我と記憶を与えられた〈模倣体〉だと。

 オリジナルはあの事故で死亡し〈ドーム〉の住人もまた内紛により全滅。

 今の〈ドーム〉に生粋の人間など誰一人とおらず、当の昔に地球上より人類は滅亡していた。

 純然たる人間は今や月に住まうただ一人。

 △△△――存命する正真正銘、最後の人類。

 ○○○を〈ドーム〉の輪から蹴り出し、自我と記憶崩壊を防ぐ処理を施すよう指示した人物。

 ○○○が協力者として選ばれた理由はたまたま複数の条件が重なった他ならない。

 その日、死ぬ運命にあったこと。

 何よりも誰よりも強い違和感を抱いていたこと。

 そして、修正を受けようと無意識ながらも再度、違和感を取り戻し続けていたこと。

 ○○○の生涯が閉じる以上〈ドーム〉内での役割は終えたことになる。

 あの輪から蹴り出された者が再び同じ輪に戻ることはない。

 今の○○○が死ねば、次なる○○○も死に、そして死を検分される。

 検分の輪は生を起点に何度も終わりなく死を繰り返す。

 死を起点として生を繰り返す。

 ○○○だけではない。〈ドーム〉を造り、〈ドーム〉で生まれ、〈ドーム〉で死んだ者たちもまた分け隔てなく検分される。

 検分を繰り返すことで人類滅亡の意味を見出す。

 解答が出るまで、無限に等しい時間の中で何度でも何度でも繰り返す。

 ぐるぐると、ぐるぐると、何度も何度も繰り返し続ける。

 結局、○○○はただの人形にすぎなかったのだ。

 自我と記憶を与えられたよく動く人形でしかなかったのだ。

 無意識のまま舞台の上で踊り続ける滑稽な役者でしかなかったのだ。

 だから壊れた。だから壊した。

 模倣された自我と記憶であろうと、本物と遜色がない本物のような偽物がために、偽物という自己の存在を自我が否定して押し潰す。

 自己である以上、自己でないという矛盾が自滅を引き起こしてしまう。


 我思えず、故に我なし。


 矛盾は捻れを生み、捻れは崩壊を呼び覚ます。

 今の○○○は○○○ではなく、破損したデータでしかなかった。

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