クロちゃんとの駆け引き

 おかしいな、僕とクロちゃんは以心伝心のはずなのに、僕の思考が分からないとは。仕方ないから、説明しよう。


「(いや、昨日ラジオで僕のハガキが読まれたじゃん?)」

「(あんなつまらないネタ、よく採用されたよな)」

「(それで僕のテンション上がるじゃん?)」

「(これ以上ないってくらい上がってたな。他人が見たらドン引きするくらい)」

「(そしたら、次も読まれたいと思って、ハガキ書くじゃん?)」

「(そういうもんなのか、よく分からん)」

「(ハガキ書くために徹夜したから眠いわけじゃん?)」

「(自業自得とはまさにこのことだな)」

「(そこで、僕に代わってクロちゃんに学校に行って貰おうと――)」

「(イヤに決まってんだろ)」


 即答だった。光の速さで拒否された。僕がどんなに頼み込んでも、クロちゃんは頑固として首を縦に振らない。

 でも僕は諦めない。全ては安眠のためだ。


「(そんなこと言わないで、お願いだよぉ)」

「(嫌に決まってんだろ。大体お前この前『勉強するのは子供の義務』て言ってたじゃねか。職務放棄すんな)」

「(それはそうだけど……)」


 それを言ったら、僕と同い年のクロちゃんだって、勉強する義務があるじゃないか。クロちゃんこそ、職務を真っ当してよ。


「(俺は良いんだよ。どうせ幽霊みたいなもんだし)」


 僕が勉強している間、身体の無いクロちゃんは基本寝て過ごしている。今はそれがとても羨ましい。あと、たまに鼻歌を歌ったりする。それはやめてほしい、耳障りだから。


「せっかく入れ替われるようになったんだからさ、クロちゃんも一度学園生活を楽しんでみたら?)」

「(お断りだ)」


 ここまで言っても折れないなんて……。


 だったら、仕方ない。

 この手段は、正直使いたくなかった。財布的にも健康的にも悪い方法だ。けど、こうなったら致し方ない。


「(……肉)」

「(っ!!)」


 僕の呟きに、クロちゃんが反応する。よしよし、餌に食いついた。あとはじっくり、焦らず、慎重に、糸を手繰り寄せて釣り上げるだけだ。


「(……これから三日間、朝昼晩、毎食お肉)」

「(朝昼晩……)」

「(パサッパサのささみ肉とかじゃなくて、脂肪分たっぷりの部位!)」

「(脂たっぷり……!)」


 クロちゃんが涎を垂らしていそうな、淫らな声を発する。きっと彼の頭の中には満漢全席の肉料理が食卓に所狭しと並んでいることだろう。


 そして僕は、最後の一言、クロちゃんが絶対に食いつくような一言を言い放った。


「(さらに、僕の味覚を通してではなく、交代してクロちゃん自身が食べる!)」

「(何やってるんだ史郎! 早く俺に代われ! 遅刻しちまうぞ!)」


 よし、作戦成功だ。

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