—11— 金色の円舞
「おら!」
ガキンッ――
クラウの豪快な一撃が石の怪物に叩き込まれる。クラウは自身の身の丈の三分の二程もある巨大な剣をいとも簡単に操ってみせている。石で出来ている相手の表面は大剣の豪快な一撃でも傷つけることはできないが、多少衝撃を与えて動きを鈍らせることはできているようだった。
怪物も負けじとクラウに飛びかかり己の兇刃を右と左と振りかざす。しかしクラウは鈍重な攻撃をさらりと躱していく。
一方フェルナは遠くから矢を番え弦を引き絞り、怪物に向けて放っていた。直接矢を当てるのではなく、クラウが動きやすいように怪物の行動を抑制するような位置を目掛けて射っていた。
「俺に当てるんじゃねえぞ!」
「クラウこそ勝手に射線上に出てきて邪魔しないでよね!」
二人はそう言いながらも流石にずっと一緒に王国騎士団で戦ってきたとあってその息はぴったりだった。クラウやフェルナが相手の攻撃を躱し、攻撃をする度に二人の金色の髪が風に揺れた。
「すごい・・・」
メルトは二人の息のあった戦い方に思わず見入っていた。するとメルトを安全なところに連れ戻すためにウィルが走ってきた。
「メルト、こっちへ!」
「あ、うん!」
ウィルはメルトを自分の背に入れて怪物からかばうようにしながらラスのところまで走っていった。無事にメルトをラスのところまで連れて行ったウィルは二人と一緒にクラウとフェルナの戦いを見つめていた。
「クラウさんとフェルナさんってとても強いんだね」
「ええ、二人共もともと王国騎士団の団員だったから。クラウなんて普段あんなだけど騎士団だった頃は相当強かったらしいよ」
「いけいけやっちゃえー!」
「俺も戦えたらよかったんだけど・・・」
ウィルは申し訳なさそうに呟いた。
「やっぱり魔法のこと気にしてるの?あの二人に見られるとまずいとか?」
「確かにそれもあるんだけど、この地下の狭い場所で迂闊に魔法を使ってしまうと天井が崩れてしまうかもしれないからね。だから使いたくても使えなんだ」
「そっか。あんなに強いけど万能って訳じゃないのね。でも大丈夫よ!あの二人ならきっとなんとかしてくれるよ!」
「そうだといいんだけど・・・」
今も余裕そうに戦っている二人を見て大丈夫たと言うラスに対して、ウィルはどこか浮かない表情をしていた。
しばらくしてからウィルの浮かない表情の理由が徐々にラスにもわかるようになってきた。初めこそ敵の攻撃を余裕で交わしながら戦っていた二人だが、こっちの攻撃がその石の体には全く通用しない上、二人がだんだん体力を消耗して動きが鈍くなってきているのに対し石の怪物の動きは依然と鈍くならない。次第にラスとメルトの表情が曇っていく。
「あわわ、どうしよう、まずいよ」
「クラウ・・・、フェルナ・・・」
必死に戦っている二人も額に汗を浮かべながら苦しい表情を浮かべていた。
「くそっ、流石に石でできた化物相手になんか戦ったことないからキツイぜ!」
「矢の残りも少なくなってきたし疲れてきたしそろそろまずいかも・・・」
怪物の当初と変わらない猛攻にクラウは次第に追い詰められていった。そして遂に怪物の爪攻撃に捉えられた。爪自体はなんとか剣で防いだものの、そのあまりの力にクラウの大きな体が吹きどばされてしまった。
「がはっ」
クラウは背中から強く打ち付けられ、一瞬呼吸ができなくなった。
「クラウ!!このっ!!」
フェルナが矢で怪物の気を引こうとするも既に矢が自分にとって驚異ではないことを学習した怪物はそれを無視してクラウの方へと近寄っていった。
「くそっ、体が思うように言うことをきかねぇ・・・」
クラウは必死に立ち上がろうとするも、呼吸がまだまともにできないせいかなかなか立ち上がることができなかった。そうしている間にも怪物は徐々に間合いを詰め、遂にはその腕を振り上げ、クラウの頭目掛けて振り下ろした。
「っ」
「クラウーーーーーーーっ!」
誰もが駄目だと思い、フェルナ以外は皆目を瞑って背けた。しかしいつまでたっても怪物の攻撃が来る様子はなかった。クラウが目を開けるとそこにはクラウと怪物の間に立ってい攻撃を受け止めているウィルがいた。ウィルは重そうな怪物の手を腰に付けていた刀で鞘ごと受け止めていた。そしてウィルが力を入れて押し返すと怪物は大きく後ろに仰け反り豪快な音を立てて転んだ。
「ウィル、お前・・・」
「クラウさん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ・・・」
ウィルはクラウが無事なことを確認すると、パチン、パチンと刀身が容易に抜けないように固定していた留め具を外し、その刀身を抜き放った。
「クラウさんとフェルナさんは下がっていてください。ここからは俺が戦います」
ウィルは自分の中で何か覚悟を決めたかのように深く息を吐き、刀を構えると鋭い目つきで怪物を睨みつけた。そしてマナによる身体強化をすると深く腰を落とした。そしてその直後、ウィルの強烈な一閃が怪物の左腕の肘を捉え、その肘から先がゴトンッと音を立てて地面に転がった。
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