—09— 初めての遺跡調査

「おーい、ラス大丈夫かー」


「きゃああ!」


「ラス、大丈夫?」


「ありがとうウィル、平気よ」


 公式にはこれが全員初めての遺跡調査になるため、特に街の外に慣れていないラスは小さな虫やコウモリが暗闇の中で音を立てて動くたびに悲鳴をあげていた。メルトは対照的に好奇心旺盛な感じで見たことのない遺跡の中の様子に興味津々だった。


 ガササッ


「きゃああっ、今度は何?」


「もうお姉ちゃんうるさいなー!」


「仕方ないでしょ!地下遺跡に入るなんて初めてなんだもの。こんなに暗くて不気味なところだってわかってたら村で休んでたわよ!」


「まあまあラスもメルトも落ち着いて。慣れれば暗さや動物くらいは怖くないから。それよりも本当に危険なのは遺跡に仕掛けられている罠だからそれだけは注意して怪しいところがあったら近づいたり触ったりしないようにね?」


 遺跡に入るのは初めてで通しているはずのウィルだがやたらと熟れた感じでラスとメルトに注意をした。


「それにしても本当にカビ臭いところね。暗いしジメジメしているし早く地上に戻りたいわ。もう部屋も仕掛けも全て他の人に調べられてるみたいだけど本当にこんなところにオーパーツがあるのかい?」


「うーん、まだなんとも言えませんね。とりあえず大変ですが念のため一通りの部屋を見て回ってみましょう」


 ウィル達は遺跡の部屋を一つ一つ見ていくことにした。遺跡の構造は多種多様ではあるがこの岩壁の中に作られた遺跡はそこまで大きく無いようだった。ざっと深さは地下四階、部屋の数も三十程度と一般的な遺跡と比べれば小さい規模であった。それでも従来の調査と違って調査されていない部屋との差分ではなく全ての部屋を改めて調べていかなければならないためそれなりに時間はかかる。地下にいるため陽の照り具合がわからず実際にどれほどの時間が経過したかはわからない。しかし、全ての部屋を調べ終えた頃にはなかなかの時間が経過しているように思えた。


「はぁ・・・疲れた・・・全部の部屋を調べても結局オーパーツも手がかりも見つからなかったね」


「あー、もっとワクワクする何かがあるかなーって思ったんだけどなー。さすがに私も疲れちゃった」


 あまりこのようなことに慣れていないラスとメルトには長時間の劣悪な環境での行動は堪えるようだった。


「しっかし結局何も無かったみてーだがどうする?とりあえず村に戻るか?」


「うーん、このままここにいても仕方がないしねー・・・。一旦戻ってからまたどうするか考えようかしら」


 クラウやフェルナはさすが元王国騎士団といったところか普段から身体を鍛えてあるので肉体的な疲労は感じていないようだった。しかし収穫がなかったことに対して精神的に疲労しているようだった。


(うーん・・・オーパーツが原因のような気がするんだけど・・・オーパーツの場所は魔法では探れないしな・・・クラウさんやフェルナさんの言うように一旦戻るしかないのか・・・?)


 ウィルは考え込んでいたがラスやメルトのこともあり、一旦村へ引き返すことにした。


「はぁー・・・結局無駄足だったねー」


「ごめんねメルト。自分がオーパーツが原因かもなんて言わなければよかったのに」


「あ、ううん!気にしないでウィル君!確かに何もなかったけど初めて遺跡入れたから楽しかったよ!」


「でもどうしよう、村の人がっかりするかな・・・?」


「こればっかりは仕方の無いことだもの。とりあえず村長さんやコルネさんに謝って次のことを考えましょう」


 ラスはそう言って遺跡の出入り口の方へ向かって足を進めた。足への疲労が溜まっているのか右手を壁につきながら重い足取りで歩いていた。そのときラスの後ろを歩いていたメルトがそれに気付いた。


「お、お姉ちゃん。それ、それ・・・」


「え、どうしたの?」


「お姉ちゃんの右手の上のところに・・・」


「え?」


 メルトに言われラスは自分の右手の方を見た。するとそこには大きな蛇が舌をチロチロと動かしてラスの方をじーっと見ていた。


「ひっ・・・いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 至近距離にいた大きな蛇に驚いたラスはメルトやウィルにぶつかりながらも先程まで歩いていた方向とは逆方向に全速力で駆け出した。


「あ、ちょっとお姉ちゃん!」


「ラス、走ると危ないよ!」


「どうした!?」


「ラスのすぐそばに蛇がいて、それを見て驚いて逃げて言っちゃったんです!」


「ったく、しょーがねーやつだなー」


「クラウさん、すみません。フェルナさんとメルトとここで待っていてください。僕が連れ戻してきます!」


 そう言うとウィルはラスを追いかけていった。その頃ラスは・・・


「いやあああああ!蛇!嫌よ、来ないでー!」


 ラスはそもそも追いかけてきていない蛇を怖がり、叫びながら走り続けていた。松明の持っていないラスは周囲が完全な暗闇になっていたがそんなことはお構いなしに逃げ続けた。しかし、遺跡の通路は何度も曲がっているためやがてラスは目の前が壁だと気付かないまま全速力で壁に激突した。


「あうっ!」


 激しく壁にぶつかったラスはそのまま跳ね返って地面に倒れた。


「いたたたた・・・」


 ラスは意外と頑丈なようで全速力でぶつかったにも関わらず大した怪我はないようだ。ラスが壁にぶつかってからすぐに松明を手にしたウィルが駆けつけてきた。


「ラス、大丈夫?怪我は無い?」


「少しだけ鼻ぶつけた・・・」


 ラスは目に涙を溜めて赤くなった鼻をさすっていた。


「そっか。大した怪我が無くてよかった。少しだけ手当するからそこに座ってて」


 ウィルは先程ラスがぶつかった壁に彼女を寄りかからせると鞄から消毒液と布を取り出し、ぶつけて擦りむいたラスの鼻を優しく手当をした。


「よし、これで大丈夫かな」


「ありがとう・・・」


「よし、じゃあ皆が待ってるところまで一緒に行こうか。もう歩ける?」


「うん、平気」


 そう言うとラスは後ろの壁に手をつきながら立ち上がろうとした。しかし、そのとき


「きゃっ」


先程ラスがぶつかって脆くなっていた壁かガラガラと崩れて倒れ込んでしまった。


「ラス、大丈夫かい?」


 崩れた壁の煉瓦に少しだけ埋もれながらけほっけほっと埃によってむせていた。


「もうっ、なんなのよー」


 尻餅をついていたラスは体に乗っている煉瓦をどけて服についていた埃を払うと今度こそ本当に立ち上がった。すると先程崩れた壁の向こうにはまた新しい通路が続いていた。


「これは・・・隠し通路か」


「え、なになに?」


「隠し通路だよ。ここはまだ誰も調査していない領域みたいだ。もしかしたらここにオーパーツがあるかもしれない!」


 ラスは状況が把握できていないようだったがウィルが喜んでいたため少しだけ嬉しそうにしていた。ウィルはラスを連れ一旦クラウ達が待っている場所へと戻った後、隠し通路があったことをクラウ達に告げると今度は皆で先程の隠し通路があった場所へ戻ってきた。


「うわー、まーた隠し通路とはベタだねぇ」


「お姉ちゃんの蛇嫌いが役に立ったね!」


「壁を破壊するとは・・・実はシャムロック最強の力を持っているのは俺ではなくラスか・・・。今度から気を付けよう」


 隠し通路が見つかったことに各々言葉を述べていたが、いくつかはラスへの悪口が混じっているようだった。それに反応したラスがまたクラウとメルトにぎゃあぎゃあと言っていたが、フェルナにうるさいと睨まれると皆静かになった。


「ここから先は今まで誰も入ったことのない場所なので、恐らくオーパーツも残っているかと思います。そして未解除の罠も・・・。ここからは何があるかわからないので皆さん本当に気をつけてください」


「そうだね、ここからは気を引き締めないと」


「ここからはクラウさんがしんがりをお願いできますか?多分罠も多数あると思うので俺が先頭に行きます」


「大丈夫なのか?」


「一応遺跡に関することは多少勉強したので同じような罠であれば対処ができるかと思います」


「そうか、じゃあ任せたが無理はすんなよ」


「わかりました。それじゃあ行きましょうか」


 ウィル達は隊形を整えると未知の領域である遺跡の更に奥深くへと足を進めた。

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