第27話 変わったな


マンションに戻り俺の部屋でパソコンに向う、楽天を開き本皮のベルトポーチを注文しようとしていた。

「美緒、色は何色が良いんだ?」

「パパのは何色なの?」

「キャメルだ」

「同じの」

「大きさは? S・M・Lとあるぞ」

「…………」

返事が無いので振り返ると俺のベッドの上でポーチから人の財布をだして、自分の財布と携帯を入れていた。

「何してるんだ?」

「パパと同じ大きさが良い」

「そう言うことか」

どうやらポーチに自分の財布と携帯が入るか確かめていたらしい。

「他に欲しい物はあるのか?」

「うん、ジーンズが欲しい。パパと同じ奴」

「はぁ? あのな……」

嫌な予感と言うかあまりにもストレート過ぎて目を細めて再び振り返った。

「何よ、そんな目で見る事無いでしょ。約束したもんね、や・く・そ・く」

とりあえずポーチを注文してジーンズを探し始める。

「パパのジーンズってリーバイスだよね」

「そうだリーバイスの501オリジナルボタンフライ」

「定番中の定番だよね」

「昔はスリムとか穿いていたけど20年以上501かな」

「す、凄い」

「ただ、面倒だろ他に探すのが」

「直ぐに面倒臭いなんだから」

楽天の中を検索していく、そしてリーバイスのレディースを見つけた。

「美緒、501のレディースモデルがあるけど」

「どれどれ」

美緒が後ろから俺の肩越しに顔を出した。

「近いぞ、美緒」

「嫌なの?」

「そうじゃなくて……暑い」

「馬鹿」

「サイズは?」

「うん、22インチかな」

「裾上げはどうするんだ?」

美緒がいきなりマウスに置いた俺の手の上に手を重ねてマウスを動かした。

「これ!」

「はぁ~これで良いんだな。枚数は2枚と」

注文画面に移しパスワードを打ち込んで後は注文確定するだけのところで少し躊躇した。

「えい! 注文完了!」

美緒がマウスを左クリックした。

「まぁ、良いか。買い物に行くぞ。何が食べたい」

「ううんと……パスタが良いかな」

「好きだなパスタ。飽きないか?」

「飽きないもん!」

「それじゃ、そこのマイバッグを持ってくれ」

「これ?」

車の鍵と携帯を持って椅子から立ち上がり美緒に言うと、美緒が汚い物でも摘むように青いキャンパス地のバッグを摘みあげた。

「ああ! 『Rag Pantry』の春夏新作のキャンパスバッグ! それもママが欲しがってて買えなかったブルー! な、何でパパが持ってるの?」

「ネットで気に入って買ったんだが、それがどうしたんだ?」

「湘南で凄い人気があって……パパって流行り物好きなんだ」

「あのな、俺は気に入った物しか買わないよ。どこの流行り物好きが20年以上501なんだ?」

「へぇ~そうなんだ」

美緒が目を細めて俺の顔を軽蔑する様な目で見た。

「くだらない事を言ってると晩飯作らないぞ」

「いじわる!」


美緒は鼻歌を歌いながら車のバックミラーに下げてあった3体のロコペリの内のスカイブルーとピンクの2体をご機嫌で指に引っ掛けてクルクル回しながら歩いている。


「なぁ、パパ。この変な人形は何? パパのポーターのバッグにも付いてるよね」

「ロコペリって言って元はココペリっと言うネイティブインディアンの精霊の一種で豊穣や子宝、そして幸運を笛を吹きながら呼び寄せるって言われているんだ。そのココペリがハワイに伝わってロコペリになったんだ」

「色には何か意味があるの?」

「スカイブルーは秘めた力をパープルは安らぎでピンクは愛情、グリーンは……華やかさだったかな」

「それじゃ、美緒はパパとお揃いのスカイブルーとピンクが良いな! 良いんでしょ貰って」

「どうぞ、ご自由に」

「えへへ、嬉しいな」

「美緒も変ったな。明るく元気になった」

「石垣島のお陰かな、後はパ……なんでもない」

「変な奴だな」

「良いの良いの、気にしない」

美緒を連れて車で直ぐの『タウンプラザかねひで』に買い物に来ていた。

「岡谷のお兄ちゃん!」

かねひでの中をカートを押しながら買い物をしていると不意に名前を呼ばれた。

声のする方を見ると喜色満面の女の子が1歳半くらいの赤ん坊を抱っこして手を振っていた。

「久しぶり! 元気してた?」

「元気だったぞ」

「あれ? その娘こは誰?」

ロコペリを指で回してご機嫌だった美緒が小さくなり、俺の後ろで隠れる様にしていた。

「秋香あきか達の妹になるかな」

「はぁ? 妹って……まさか岡谷のお兄ちゃんの子どもなの? こんな大きな女の子が居たなんて…… どう言う事なの?」

秋香の笑顔が驚愕に変りそして疑念になっていく。

「昔、付き合っていた彼女の娘だよ。父親を探しに石垣に来たんだ」

「でも、なんで岡谷のお兄ちゃんの所に居るの? それに秋香達の妹って、もしかして」

「無きにしも非ずっというか可能性は高確率かな」

「で?」

秋香が俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。

「そんな怖い目で見るな、夏実と知り合う前の話だよ」

「そうなんだ、始めまして新城秋香あらしろあきかです。この子は娘の美夕みゆうです」

秋香が俺の後ろを覗き込むようにして美緒に自己紹介をした。

美緒は不安げな目で俺を見上げていた。

仕方なく手を取って俺の横に引っ張り出した。

「長女の秋香と孫の美夕だ、こいつは……」

「始めまして大羽美緒です。パパじゃない、岡谷さんの所にお世話になっています。歳は14歳です」

俺が紹介しようとすると美緒が強張った顔で自己紹介をして頭を下げた。

「あれ? 今、パパって言わなかった」

「そ、その。あの」

秋香が美緒の顔を覗き込むように顔を近づけると美緒がシドロモドロになった。

「うふふ、可愛いんだ。美緒ちゃんか宜しくね、仲良くしようね」

「えっ?」

「だって妹なんでしょ。今度、私の妹の茉冬まふゆを紹介するね。弟の春介しゅんすけは内地に居るから紹介できないけどね」

「は、はい」

「それじゃ、岡谷のお兄ちゃん。今度、皆でご飯でも食べに行こうね」

「そうだな」

秋香が美夕を抱いて手を振りながら笑顔で歩いて旦那の居る方に歩いていった。

美緒を見ると呆気に取られて放心状態になっていた。

「何を惚けているんだ」

「だ、だっていきなりパパの娘さんに会うなんて思ってもみなかったんだもん。それに孫まで居るなんて……でも、あれ? 秋香さんって何歳なの? それに岡谷のお兄ちゃんって」

「秋香は24かな」

秋香の年齢を聞いた瞬間に美緒の頭の中は?マークで溢れ返ってしまったようだった。

「秋香も春介も茉冬も夏実の子どもだよ。俺とは血の繋がりは無いよ」

「えっ? えぇぇぇぇ!」

美緒の叫び声が店内に響き、周りの買い物客が何事かとこっちを見た。

俺はそ知らぬ振りをしてカートを押して歩き始めた。

「パパ! 待ってよ!」




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