第16話 驚いたふり




一旦、マンションに戻りネットで情報を収集する。

そしてSNS(ソーシャル ネットワーキングサービス)の最大手を使って情報を提供してもらった。

「ミクまでやっているのか?」

「まぁ、暇つぶしかな。他にはブログとホームページも持っているが」

「考えられないな、40越したおっさんのする事じゃない」

「悪かったな。40越してて、好きで年取った訳じゃないんだ。それにこれでも若く見られるほうなんだぞ」

「確かにとうに40を越しているとは思えないけどな」

「棘がある言い方するな、まったく」

店の掃除を終わらせて賄いを食べてからマンションに戻ってきたのが16時過ぎだったので情報を集めていると日が傾いてきて18時を回ろうとしていた。

「軽くシャワーを浴びてくるが美緒はどうするんだ?」

「私は帰って来てからで良い」

「了解した」

居間代わりの部屋の押入れのブラインドーを上げて、着替えを出していると不思議そうな顔をして声を掛けてきた。

「風呂上りに裸で出てきたら驚いた振りしてぶっ飛ばしてやろうと思ったけれど、着替えを準備していくんだな」

「そんな事だろうと思ったよ。美緒がいなければトランクスとTシャツだけで普段は部屋に居るよ。まぁ瑞穂の言葉を借りれば経験豊富なんだよ」

「私くらいの年頃の女の子との生活に慣れているって事なのか?」

「まぁな」

「なんでだ?」

「俺が結婚していた事は知っているんだろ。当然、子どもが居た事も」

「何となくママから聞いた事がある」

「そう言うことだ」

軽くシャワーを浴びてTシャツからカッターシャツに着替えて出かける準備をする。

黒いショルダーバッグを肩に掛けて美緒に声を掛けた。

「美緒、出掛けるぞ」

「判った。なんだそのバッグ?」

「ああ、一応カメラを持って行こうと思ってな」

「へぇ、吉田カバンのポーターのラウンドじゃん。良いセンスしてるじゃん」

「ネットオタクだからな。情報通なんだよ」


車に乗り市街地を抜けてバンナ方面へと車を走らせる。

「なぁ、あれがバンナの展望台なのか?」

「右手に見える山の上にあるのが展望台だよ。これから向うのは反対側の天文台がある万勢岳だ」

「天文台なんかあるんだな」

「石垣島は北回帰線に近い北緯24度に位置していて、ジェット気流の影響が少なく大気が安定していて内地では見られない南十字星などの星を観測する事が出来るかららしいぞ」

「へぇ、博学なんだな」

「お客さんに色々島の事を聞かれるからな。少しでも知っておかないと困るだろ」

「なぁ、聞いて良いか。何で奥さんと別れたんだ」

「別れた理由なんて人に話すような事じゃないだろ、相手が居るんだから。まぁ、あいつが話すのなら構わないけどな」

「そうなのか」

「そうだ」

バンナの入り口を少し過ぎて左折して万勢岳への一方通行の道をゆっくり進む。


万勢岳にも展望台があり遊具があって遊べるが展望台へとは進まずに天文台に向かい、展望台と天文台の中間辺りの道が広くなっている所に車を止める。

「車から降りて防虫スプレーで虫除けをしておくんだ」

ダッシュボードから防虫スプレーを取り出して美緒に渡すと、体にまんべんなく吹き付けていた。

自分の体にも吹き付けて少し坂を下ると山側が少し開けた所にでた。

「まだ、少し時間が早いかな」

「何時から見れるんだ?」

「日没後から1時間ぐらいの間が一番多く飛ぶかな。今なら7時過ぎから8時くらいだな」

「ふ~ん」

しばらく待っていると辺りが暗くなってきた。

「あっ、光ってる」

その光りは内地の蛍とは違いフワッという感じではなくどちらかと言うと間隔が短いチカチカに似ている光り方だった。

「なんだか緑っぽい光りだな」

「ヤエヤマボタルやヤエヤマヒメボタルって呼ばれている5ミリ程度の小さな蛍なんだ」

「オスもメスも光るのか?」

「メスは羽根が退化して飛べないので枯葉の下に居るから人目につかないんだ」

「ふ~ん」

段々暗くなるにつれ蛍の数が増えてくる。

近くの茂みの中で光り出したものが山の中まで光だしフワフワと光りの粒子が飛び始める。

「うわぁ~」

美緒が驚嘆の声を上げた。

山全体に光りの粒子が浮遊し始めた。

まるで山全体が星空のように光り輝きその光りがゆらゆらと動いているのだ。

「こんなの始めてみた、凄い。ママも見た事があるのかなぁ?」

「どうだろうな、俺は一緒に見に来たことは無いな」

「なんで?」

「なんでって聞かれてもな、昔の事だし」

「過去の話なのか? ママは」

美緒のピンポイントで射抜くレーザービームの様な言葉が俺の深い所を貫いて痛みが走った。

「過去か、そうかもな。でも、美緒は過去じゃないだろing現在進行形だ」

「ママにも見せてあげたいな」

「今度は美緒が連れてきてやればいいさ」

「そうだな、甲斐性なしじゃ無理だもんな」

「さすが真帆の娘だ。しっかりしているし男を見る目があるな」

「本当に馬鹿だな」

「何度も言わせるなよ。俺は馬鹿なんだ」

「バーカ!」

美緒があっかんべーをしてプイっと踵を返して車に向って歩き出した。


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