第14話 驚いて


「何の密談中なのかな? おや? あなたは?」

長い黒髪を一つに纏め紺色のスーツ姿の見た目はバリバリキャリアウーマンぽい、あまり背の高くない野崎オーナーが出勤して声を掛けてきた。

「あっ、オーナー。おはようございます。この子はチーフの隠し子の美緒ちゃんです」

「隠し子? おい岡谷、面白そうな話じゃない。今すぐに事務所に」

「へいへい、判りました」

渋々、飲みかけのコーヒーカップを持ったまま立ち上がると野崎が指でテーブルを強く指差した。

仕方なくカップをテーブルに戻して奥にある事務所に向った。


「おいおい、ユーカ。お前が余計なことを言うから事情説明と言う名の詰問だぞあれじゃ」

「大丈夫だよ、テル。オーナーとチーフの仲だよ」

「本当にユーカは馬鹿だよな。言葉を選べよ」

「テルに馬鹿呼ばわりされたくないよ」

「もう、2人とも止めて。美緒さんが困惑してるでしょ」

美穂里に制された由梨香は波照間が言おうとする事を美緒の顔をみて理解した。

「あっ、ゴメン。そう言う意味じゃないんだよ」

「たく、どう言う意味だよ。じゃ」

「テルは黙ってろ! オーナーとチーフは仕事上の付き合いが長いからね、仲間って感じかな」

「でも、あいつの周りには女の人ばっかり」

「う、う~ん。そうだな確かにそうかも。それにチーフの知り合いからチーフとなら結婚しても良いって言う女の人が居るって聞いた事がある」

「あちゃ、ユーカいい加減にしろよ」

「あっ、ゴメン……また余計な事言っちゃった」

波照間が渋い顔をして額に手を当てて、由梨香はシュンとして肩を窄めて下を向いてしまった。

「大丈夫だよ、あいつがそう言う人間だって良く判ったから」

「駄目! そんな風に決め付けちゃ絶対に駄目!」

美穂里が声を荒げて立ち上がった。

由梨香と波照間は突然の事に驚いて呆気にとられて美穂里の顔を見上げていた。

「な、なんなんだよミポ。いきなり」

「だって、哀しいよ。美緒さんはチーフに会ったばかりでしょ、それなのにチーフの一面だけをみてそう言う人だなんて」

「もう、美穂里がそんなに感情を表に出すなんてびっくりしちゃった。私からもそんな風にチーフを見て欲しくないなぁ。チーフは奥さんと別れてからずーと独りだよ。確かに優しいから誤解を受けるような事や好意を持たれる事はあるけど、誰か特定の人と付き合うような事はしないみたい。理由は教えてくれないけど」

「本当に?」

「本当だよ。本心じゃないと思うけど『面倒臭い』とか『独りが気軽で良い』とか言ってはいるけど寂しいはず無いと思うもん。ねぇ」

「う、うん」

「はぁ~」

美穂里と波照間がお互いに目配せをして敬遠しあっていた。

「他に何かあるんですか?」

「時々だけど、海を見ながら考え事とって言うか遠い所を見ているっていうか」

「凄く冷めた目って言えば良いのかな、哀しそうな目をしている時があるの」

「そうなんだ。色々と教えてくれてありがとう、しばらくは石垣島に居るつもりだから宜しくお願いします」

美緒が改まって姿勢を正して3人に頭を下げた。

「本当に? それじゃ今度一緒に遊ぼうよ!」

「そうだなイチャリバチョーデーだな」

「イチャ? 何ですか?」

「一度会えばみんな兄弟の様なものって言う沖縄の言葉だよ。俺が島の言葉を教えてあげるよ」

「ええ、テルの言葉はヒンガーとかヤナーとか汚い言葉ばっかりじゃん」

「ひでぇなぁ。俺だって綺麗な言葉くらい知ってるよ、使わないだけだ」

「使わないじゃなくて使えないの間違いじゃないの?」

「ただ、使う時がないだけで」

テルとユーカの掛け合いをミポが楽しそうに見ていた。

そんな3人を見ながら美緒はなんだか楽しくなり自然に笑顔になっていた。





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