第28話

今回は番外編ということで唯視点です!

本文

「唯、早くこっち来いよ!」


 淳一はそう言うと私の手を引っ張っていく。

 小学生の頃に比べて力が強くなった気がする。 それにこんなに手もゴツゴツと骨ばってなかった気がする。

 前まで身長だってそんなに変わらなかったのに中学校に入学してから、淳一は私の身長を遥かに越していった。 中学2年生の今、私の身長は入学時からあまり変わっていない。


 そんな淳一のことを最近意識して考えるようになったのは何でかな。

 ……きっと、この前友達に冷やかされた時だ。 淳一といつものように登下校していつものように喧嘩してた時、

「ほんっと唯と淳一は仲良いわねー、もう付き合っちゃえば?」

 と友達が言ってきたからだ。


 すぐさま私たちはそれを否定したんだけど。

 だって淳一のことをそんな風に考えたことがなかったから。 淳一と付き合うとか意味わかんないし。 それに付き合うってよく分かんないし。

 でもそういうモヤモヤもあってあれから淳一のことが少し気になる……のかな?


「淳一、どこ行くの?」


 私が聞くと淳一は「はー?」といった顔をした。


「どこって決まってるだろ。 今日は七夕だろうが。 神社に短冊飾るんだろ。 お前が絶対今年も行くって言ってたんだろうが」

「あー、そうだったわね」

「バカだな唯は」


 淳一がバカにしたような目で私を見てニヤニヤと笑う。 いや淳一は実際バカにしてる。 ムカつく。


「バカって言う方がバカよ! それに私バカじゃないし! 淳一より成績いいし!」

「せ、成績だけが全てじゃないだろ! 雑学とかお前より詳しいし! 地球が何で青いのか知ってるか?」

「はいはい。 いいから行くわよ」


 さっきまで淳一が私を連れて歩いていたけど、今ので立場が逆転した。 今度は淳一が私の後ろをついてきている。

 並んで歩かないのは恥ずかしいから。 友達にからかわれてから並んで歩くのがなんだか恥ずかしい。

 淳一はどう思ってるのか分からないけど。


 しばらく歩くと神社に着いた。 神社にはいつもより大勢の人がいた。 皆、各々書いてきた短冊やその場で書いた短冊を笹に飾っている。

 ちなみに私たちはまだ短冊を書いていない。


「とりあえず短冊書きに行こうぜ」


 そう言うと淳一は短冊を書くために設置されたテントへと走っていく。


「ちょ! 淳一、ちょっと待ちなさい!」


 そう言って淳一の後を追おうとした時、足を変な風にひねってしまいその場で転んでしまった。

 痛い。 地面に手をつけ起き上がろうとすると目の前に淳一が現れた。


「まったく、バカだな唯は。 ほら手掴めよ」


 そう言って私に手を差し出してくる。

 私は何だか情けなくてその手を掴みたくなかった。 少しの意地もあった。

 そんな意地っ張りな自分にも情けなくなってくる。 いつも淳一に対しては意地っ張りになることが多い。


「いーから行くぞ」


 淳一はそう言って私の手を無理やり引っ張った。 手を引っ張られ短冊を書くテントへと連れて行かれる。

 相変わらず淳一の手はゴツゴツしている。

 淳一は男の子なんだなと思い知る。 声だって最近変わった気がする。 前はこんな低い声じゃなかったのに。

 胸のドクンと高鳴るのを感じる。

 これは何だろう。 神社に行く前には感じなかった胸の高鳴り。 自分でもびっくりしてしまう。

 胸が苦しい。 でもそれが心地良くもあるのは何故だろう。

 この気持ちは何だろう。

 ……この気持ちが分かった気がする。


「おーし、じゃあ書くか!」


 淳一はそう言って私にペンと短冊を渡してくれた。


「淳一のことだから大したこと書かなそうね」

「はー? 小遣い値上げというビッグな願い事がだな!」

「あんま人に教えると叶わないらしいわよ?」

「まじかよ! じゃあ見せねえ!」


 嘘だ。 そんな話聞いたこともない。

 淳一はアホだなと自然と笑ってしまう。

 淳一は私に見えないように短冊を書き始めた。


「よし、私も書こうっと」


 私はそう言うと短冊を書き始めた。

 さっき知った思いを込めて




『淳一が私のことを好きになりますように』

 


 私はまだ素直になれそうにないから伝えられそうにない。


「書けたー! 飾ろうぜ唯!」


 でも今はそれでもいいかな、と淳一の笑顔を見てそう思った。

  胸が痛い。 でも何だか嬉しい痛み。

  正面には生まれた時からの幼馴染。

  近くて遠いそんな存在。

  私は大きく息を吸い込む。


「淳一のバーカ!」

「いきなりなんだよ」

「何でもない」

「何なんだよ」

 

  ふふっと私は微笑む。

  淳一もつられて微笑む。


  夏の匂いがした。

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