第26話
「ん? 2人ともどうした?」
曲を合わせてから、真柴と石田が唖然とした顔で俺を見つめてくる。
一体どうしたってんだ? 俺なんか重大なミスでもしてたか?
「お、おいどうしたんだよ!」
俺がそう言うと真柴はハッと我に返ったようで口を開いた。
「いやあ……なんて言うかね〜石田くん」
「…………ああ」
真柴と石田は顔を合わせそんなことを言い合った。
「……そんな下手くそだったのか……」
「いや、下手くそじゃないよ! むしろうま……上手いとは言えるのかな?」
「どっちだよ!」
真柴は困惑した顔をしながら続ける。
「技術的な上手さはあまり……ないけど、何か不思議な感じ……石田くんのドラム、私のベース、そして淳一くんの歌とギターで……それが合わさって化学反応が起こってあんな気持ちになったのかな……」
「……それもある。 けどサビに近づくにつれ俺のドラムと真柴のベースが淳一の歌とギターに完全に食われちまってた」
「……そうだね。 途中で淳一くんに圧倒された。 私たちはそれについていくので精一杯だったくらい。 淳一くんの感情がギターと歌に乗り移ってた」
「えーっと、つまり?」
真柴は困惑した顔から真剣な顔になり一息ついてから口を開いた。
「淳一くん、君は凄いんだよ」
「ああ、つまりはそれだな」
「……抽象的だな」
「だって淳一くんが悪いんだよ! 何あれ! さっき言葉で言い表そうとしたけど上手くできてる気がしないもん!」
「ああ、淳一が悪い」
「おいおい、何だよそれ! 意味わかんねえ!」
「じゃあ、もう一回合わせようぜ。 そしたら上手く言い表せると思う」
「よしゃこい!」
そしてもう一度曲を合わせることになり合わせ曲が終わった。
「……あれ? 何か今回は何も感じなかったな」
「うん、全く。 淳一くんギター下手くそだな〜ぐらい」
「おい、真柴。 って何? 今回は駄目だったの?」
「うん、さっきの凄みはなかった」
「もう一回だ! もう一回!」
その後、何度か合わせたが真柴と石田曰く、何も感じなかったらしい。
何度も合わせて喉が疲弊していた時、真柴が話し始めた。
「わかった! 淳一くんの力の引き出し方!」
「え! 何だ?」
俺が聞くと、真柴は誇らしげな顔をして続けた。
「淳一くんは、感情を込めることで凄みを出してたんだよ!」
「……何だ? その抽象的なやつ」
「私、さっき淳一くんの感情がギターと歌に乗り移ったって例えてたでしょ? それだよ。 淳一くんは歌ってる時、誰かのことを思い浮かべてたんじゃない?」
図星だ……唯のことを考えていた。
「その顔を見ると図星かな? 誰のことかは聞かないけどね」
真柴はふふっと笑いながら俺にそう言った。
「歌を歌う時はそれが一番大事なのかもね」
確かにそうかもしれない。 唯のことを考えて歌ったら自然と感情が高まった。
そしてさっきまでの数回の合わせはそんなこと頭になくて何故真柴と石田はそんなこというのだろうと思いながら歌っていた。
「そうだな」
俺がそう言うと真柴はニコッと再び微笑えんだ。
「わりーな2人とも。 俺、今日はもう疲れた」
石田が床に寝っ転がりそうぼやく。
「それじゃあ今日は終わりにしよっか」
「そうだな」
真柴楽器を後にし、俺たちはいつものファーストフード店に向かった。
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