第64話 支払いの宝石
「主殿、仲間達が今月分の宝石を持ってきましたぞ」
リザードマンのゼルドが、仲間達がやって来た事を報告しに来る。
彼等は、以前の悪魔退治の件で支払えなかったライズへの報酬を分割で支払う事になっていた。
「分かった。応接間に通してくれ」
リザードマン達に貨幣の概念はない。
その為彼等から受け取る報酬は彼等が発掘する宝石を受け取る事で対価としていた。
しかし他の客も多く来る待合室で沢山の宝石を受け取るわけにも行かない。
沢山の宝石を受け取ったと知れば、泥棒がやってくる可能性も高くなるし、リザードマンの里にも迷惑が掛かるかもしれないからだ。
その為、報酬の受け取りは応接間にて秘密裏に行われていた。
「お久しぶりでございますライズ殿」
長であるゼルドの代わりにリザードマン達を指揮する事になったビヴォータがライズに挨拶をしてくる。
「お久しぶりですビヴォーダさん。その後ジュジキの沼は大丈夫ですか?」
「ええ、おかげさまで。あの化け物がメチャクチャにした里の復興も大分進み、今では以前と変わらぬ活気を取り戻しております」
「それはなにより」
にこやかな雰囲気でビヴォータが里の復興状況を語る。
心なしか、ライズの横に控えているゼルドからもうれしそうな感じを受ける。
「こちらが今月の宝石となります。お確かめを」
ビヴォーダは部下から一抱えもある袋を受け取ると、それをテーブルの上に置く。
そしてライズの横に静かに控えていたラミアが袋の口を開いて中身をテーブルの上においてゆく。
「……これはまた」
内心、ライズはかなり驚いていた。
リザードマン達の発掘する宝石と聞いていたので、てっきり原石だと思ったのだ、
だが実際の目の前におかれた宝石は明らかに人の手の加えられたものだった。
色とりどりの宝石はサイズも大きく、1つだけでも相当な価値があるであろう事は明白だった。
(正直これだけでもう悪魔退治の報酬を支払い終えてないか?)
だがゼルドとの契約はリザードマンの集落に蓄えていた宝石全部であり、なぜか失われていた宝石と同量の宝石を差し出すまで毎月宝石が支払われる事となっていた。
(すべての量を支払い終えたら一体どれだけの財産になる事やら)
しかしここでライズは気になる宝石の存在に気付いた。
「これは……」
その宝石は今回の支払いの中でも一際大きな宝石だった。
だが、それと同時になぜか見ていてとても不安な気分にさせられる物でもあった。
「なんだ? 魔力か?」
ライズが宝石をじっと見つめると、その内側から背筋が寒くなる様な魔力の波動を感じる。
「ビヴォーダさん、これらの宝石はどうやって手に入れたものなのですか?」
ビヴォーダがライズの横に居るゼルドを見る。
長である彼に指示を仰いだのだ。
「構わん、主殿は我等の恩人。そして我の主であるならば、我等リザードマンの主も同様。いかなる質問であろうともお答えせよ」
「はっ!」
(そこまで忠誠を求めてはいないんだけどなぁ)
過剰な忠誠を示してくるリザードマン達にライズは内心で驚愕する。
ライズとしては魔物達とゆるく仲良くしたいのだが、なぜか彼に従う魔物達はライズを絶対の主として従う傾向にあった。
割りと無茶振りをさせるユニコーンですら文句を言いつつも素直に従うのがその良い証拠であった。
「これらの宝石はジュジキの沼にある遺跡の中から見つけ出したもののございます」
「遺跡?」
以前ドラゴンに乗ってジュジキの沼へ行った時の記憶を呼び起こすも、その様な建物の記憶が見つからない事に首を傾げるライズ。
「そんなのあったっけ?」
「前回お越しいただいた時は夜でしたからな。それに遺跡は木々に隠れて見つけにくくなっております。気付かれなかったのも無理はありますまい」
「そうか……」
遺跡と聞いてライズは納得した。
朽ち果てた文明の後からなら、確かに加工済みの宝石が手に入るのはおかしくないからだ。
だがライズはそれよりも、目の前の宝石からにじみ出る邪悪な気配に覚えがある様な気がしてならなかった。
「お二人とも、これと同じような宝石を以前遺跡で見つけられませんでしたか?」
ライズは嫌な気配のする宝石を指差しながら二人に問いかける。
「この宝石ですか?」
「うーむ、宝石などどれも同じに見えるので特に気にした事はありませんでしたが……」
リザードマン達が首を傾げて考え込む。
「おおそうだ、確か先代の長が外から取引に来る人間達に見せる為と称して壁棚に飾っておりました!」
「おお、そうだった、そうだった!」
ビヴォーダがポンと手を打って思い出すと、ゼルドも思い出したらしく同意する。
「なくなった宝石、それにこの邪悪な気配、突然現れた悪魔の使徒……」
ライズは宝石を見ながらこれまで起きた出来事を思い起こす。
「この宝石、一度詳しく調べた方が良さそうだな」
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