第34話 水の魔物達の仕事
新たに建設された事務所の裏手で、ライズと魔物達は集まっていた。
そして彼らの会話の内容は、新たにやってきた魔物達についてであった。
「クラーケン達にも仕事をしてもらおうと思う」
「「「賛成です!!」」」
ライズの宣言にさっそくラミア達が賛同の声を上げる。
「人間の領域で暮らす以上、お金がかかるのは当然です。ですので水棲の魔物とはいえ、彼らも働くのは当然だと思います」
「その通りですわ。私達だけが働いてあの人達だけが水場でプカプカ浮いているだけなのは不公平ですもの」
「不公平-!」
特にラミア、ドライアド、ハーピーは顕著だった。
「それはかまいませんが、どのような仕事をすればよろしいのですか?」
と、疑問を呈したのは後発組代表としてやってきた魔物のセイレーンであった。
水棲の魔物達は基本体が大きいか、陸上での活動には向かない者が多かったからだ。
「そうだな、できれば水場での活動がメリットになる仕事をさせたい所だが……」
まだ明確な方向性を決めていなかった為、ライズはどんな仕事をさせようかと考え込む。
「ソレなんだがねライズ君」
と、そこに現れたのはデクスシの町の商人達だった。
「おや、これは道具屋のホムズさん。それにそちらの方々は……」
ホムズの後ろに立っていたのは、ライズの運営するドラゴン馬車の常連商人達だった。
「やぁ、いつも世話になってるね」
商人の一人が手を差し出してきたので、ライズもまた手を出して握手を行う。
「実はね、キミの新しい魔物の話を聞いて彼らがぜひとも新しい輸送手段として活用できないかと言ってきたんだよ」
「新しい輸送手段ですか?」
飛行能力を持つドラゴンならともかく、陸生ですらない水棲の魔物をどうやって輸送手段として使うのかとライズは疑問に思った。
「あいつ等は水棲の魔物なので、空は飛べませんし、陸上での活動にも制限がつきますよ」
商人達が分かっていない可能性を考慮して、ライズは魔物達が水棲の生態だと注釈を加える。
「ああ、分かっているとも。むしろそれを踏まえての交渉なのさ」
ここまで来るとライズは交渉内容に興味を持った。一体どうやって水棲魔物を商売に利用するつもりなのかと。
「実はだね、キミの使役する魔物達を、川の流れに逆らって上流へと上るイカダとして使わせてもらいたいんだ」
「成る程」
ここに至りライズはようやく商人達の目的を理解した。
本来水路を使った輸送は上流から下流の一方通行だ。
その為下流から上流へは馬車か人力での輸送にせざるを得ない。
だがそれらを使って上流に上がるには坂を上る事も多くなる。
そうなれば労働力である人足や馬の疲労は相当なものになるだろう。
更に言えば一度に輸送できる量にも差が生じる。
だが、それらの問題をクラーケン達水棲の魔物で補えばどうなるか?
水を自在に動く彼らならば、人足や馬車以上に大量の荷物を迅速に上流へ運ぶことができる。
時間、量、金銭とあらゆる面でコストを削る事ができるだろう。
「ドラゴン程の代金は支払えないが、その分輸送量は増えるだろうから総合的には十分な儲けになるだろう。どうだい?」
つまり彼らはドラゴンよりも安価な輸送手段を求めていたのだ。
ドラゴン馬車は確かに便利だが、コストと輸送量の面では間違いなくクラーケンの方が上だろう。
ドラゴンと違い活動範囲は狭まるだろうが、それを差し置いても商人達には輸送の選択肢が増えるという結果が魅力的に映った。
「興味深いですね。ぜひとも詳しいお話をしたく思います」
それは、実質クラーケン運送の承諾をしたに等しい発言であった。
◇
「という訳でクラーケン達に定期輸送の依頼が来たけどする?」
『請け負おう』
クラーケンの返答は早かった。
『ドラゴンに不満がある者達の要請なのだろう? つまり我がドラゴンよりも優秀であるという事だな』
ドラゴンと中が悪いのか、クラーケンはドラゴンと同じ輸送行を営む事を受け入れた。
(実際には用途の違いなんだが、まぁ張り合ってる間はそれ以上の喧嘩に発展する事もないだろうから心配要らないか)
そうして、クラーケン達による水上輸送が始まる事となった。
内容としてはドラゴンで運ぶほどではない品や、ドラゴンでは量を運べないかさばる品の輸送が第一品目となった。
そしてクラーケンの体ならば、ちょっとした滝も自分の触手を使って乗り越えられるため、予想以上に上流まで荷を運ぶことに成功できたのも商人達にとってはうれしい誤算であった。
更にケートスやタラクスクのようなクラーケンほど出なくとも大型の水棲魔物達が狭くなった川をさかのぼって荷物の輸送に協力してくれた。
「いやー、君達のお陰で輸送が大幅に短縮できて助かるよ」
輸送を依頼に来る商人達から、比較的安く迅速に運べるクラーケン輸送への感謝の言葉を聞く事もあって、ライズは水棲の魔物であるクラーケン達でも十分に仕事が可能であると確信するのだった。
「いいね、この稼ぎなら屋敷の借金もそう遠くないうちに返し終えるな。そしたらまた新しい土地の権利を購入して水棲の魔物達が住めるように川の水をこちらに引くのもありかもしれないな」
仕事が順調な事に笑いが止まらないライズ。
クラーケン達のお陰で、ライズの収入は以前の二倍になっていたのだ。
「主様~、酒場のお仕事終わりましたよ~」
と、ちょうど仕事から帰ってきたセイレーンがライズの下へとやってくる。
セイレーンはその美声を生かして酒場の歌姫として働いていた。
彼女の魔力が篭った歌声は、店の客の心を癒し、時に暴れる乱暴者をおとなしくさせる役に立っていた。
水棲かつ小型の魔物であっても仕事はできる好例である。
「ああ、お帰り」
ライズはセイレーンをねぎらいながら、ケルピーの用意した水を差し出す。
「ありがとうございます」
「何か変わったことはあったかい?」
町での出来事を問うライズ。
単純な情報ならば、ケットシーが居るので必要ないが、ケットシーの居ない場所や彼らが聞こえない小声で会話する可能性もある。
その為、ライズは直接魔物達との会話も大事にしていた。
「はい、リザードマンの方達から依頼をいただきました」
「へー、そうなのか……ってリザードマン!?」
まさかの発言に驚くライズ。
「で、受けたのか!?」
しかしライズの質問にセイレーンは首を振った。
「いいえ、決断されるのは主様ですので。彼らからの依頼は主様の許可を得てから答えると言っておきました」
「まぁソレが正しいな」
予想外の出来事にライズは冷や汗を垂らす。
「さーてどうすっかなぁ」
新しい騒動の始まりであった。
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