第70話 悪いスライム色の薊の花言葉

「どうも、ヴィーシニャさん。悪いスライムです」

 入浴中のヴィーシニャの前に現れたのはマギヤの声した白くてヴィーシニャより大きな自称悪いスライムだ。

 こっちの姿の方が分かりやすいでしょうか、と輪郭を細い放物線状から人型に変えた自称悪スラだったが、さっきので大丈夫とヴィーシニャに言われたので、輪郭をさっきの放物線状に戻す。


「ど、どうしてここに?」とヴィーシニャが目の前の存在に問いかける。

「おや、忘れましたか? ああ、私と繋がっている内は思い出せないようにしてたのを忘れてました。数秒だけ映像見せますね」

 観覧車の中で白濁のスライムに上の口や下の口を犯されるイメージがヴィーシニャの脳によぎり、半身浴に近い状態とはいえ、湯に浸かってるのに寒気で震えるヴィーシニャ。

 おやおや大丈夫ですか、とヴィーシニャの肩回りを温かいスライムで包んで、頭を触手で撫で悪辣に微笑むスライム。

「聞きたくても聞けないであろう『繋がっている』についてお答えしておくと、

貴方がマギヤ・ストノストに犯されたという記憶を思い出せないように、犯すついでに寄生することを『繋がる』と称しました。

どこに寄生しようかは少々迷いましたよ、なにせ外から見える下の穴だけで三つもありますから……最終的に男にはない神秘の園たる膣内部および子宮頚部に決めましたが」

 スライムがそこまで言うと、はあぁ……と深いため息を付きながらヴィーシニャに絡ませてたスライム等をしまい、自身の高さをヴィーシニャの目線ぐらいまで下げる。

「あの人の墓前に自立したいという心構えを込めた花を手向けておきながら……えーと、あの人の誕生日からいーち、二ぃー……五節ほどしたのちに、人に、しかも貴方に寄生するだなんて正直想像すらしてませんでしたよ」

 そう言ってさらに高さをヴィーシニャの肩より少し上まで下げたスライムは、スライムから見て右側のヴィーシニャの肩に近づき、もたれかかる。


「……冷凍庫の中で氷ができる過程を知っていますか」

 習った気がするけど思い出せないと答えるヴィーシニャにスライムはヴィーシニャから離れて解説する。

「――そして氷を割ると中央の空洞から濃縮された不純物を含んだ水が流れます。大きな氷ならその水の量もそれなりになるでしょう。……貴方が知っているマギヤ・ストノストを大きな氷とするなら、その不純物を含んだ水が今ここにいる私です。今マギヤ・ストノストとして振る舞っているあれは、言うなれば本来の、ありのままのマギヤと言っていいでしょう。……ただあのマギヤは良くも悪くも正直なので、なにか問題を起こさないといいのですが……」

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