親を亡くしたある兄弟が美しい少年少女に出会った。

第57話 弟は少女への感情を恋と名付け、兄は少年への想いを欲と名付けた。

「な、なあ、マギヤ。と、時々オレに触ったり、液体みたいなのをかけたり……オレの体……の中……に入ってきたりしたのって……お前じゃ……ない、よな?」

「私以外の誰にそういうことが出来ると言うのですか、ウリッツァ?」

 昨夜、何者かにエロ同人みたいな……もとい、けしからんことをされたウリッツァ。

 そのウリッツァが朝目覚めると、隣でマギヤが寝ていた。

 おまけに、このマギヤ、起きてそう間もないうちに、ウリッツァにあんなことこんなことしたことを認め、それについて、全く悪びれなかった。

 それに眼鏡をかけるために髪を分けはしたものの、半分オールバック状にしたり、束ねたりせずにいた。


「ま、マギヤ……なんでオレにそんなことしてたんだ……!?」

「貴方を愛しているから……なんて言いませんよ。貴方への想いを表すのに、愛ほど、相応ふさわしく言葉はありませんから。

最もふさわしい言葉は……貴方を支配したいから、です」

「し、支配?」

「初めて貴方を見たあの瞬間、『ああ、従わせたいな』という思いがよぎりまして。

幼い頃よく私とプリストラが一緒にいたのは、プリストラが好いているヴィーシニャさんの近くに大抵貴方がいたからですよ、ウリッツァ……」

 どことなくうつろな目で微笑みながら、マギヤは、そう話す。


「じゃ、じゃあ、あんなことをし出したのは、いつからだ……?」

「そうですね……あの人と戦う数日前、貴方があの人のせいで魔力量を使いきって寝込んでいた日が最初です。もっとも、最初の日からあの人が処刑されるまでは大人しくしていた、いえ、せざるを得なかったのですが」

「どういう意味だ?」

「あの人が死んでから、宿題など周りから『やれ』と言われたことしか、しようと思えなくて……。

そんなとき、ヴィーシニャさんが私にウリッツァの当て馬を頼んできたので、私がウリッツァに振られるにはどうすればいいか考えた結果が今です」


「あとマギヤ、最後にもう一個聞かせてくれ……なんで起きてからほとんどずっと笑ってるんだ?」

「貴方の中で果てて寝落ちて目が覚めて目の前に貴方がいる。……いつもはその事実だけで笑っていられるのですが、今日は……ウリッツァが、こんな私の話をちゃんと聞いてくれるから、でしょうか」

 そう言ってマギヤは目を閉じるほどに伏せ、しばらく――と言っても客観的には、ほんの一分弱――経ったあと、ウリッツァに、こう切り出す。

「ウリッツァ、私をこの部屋と班から追放してください。部屋だけ別れるのは生殺しでしたし、一度貴方と本格的に距離を置いて自分をちゃんと見つめ直したいんです」

「マギヤ……」

 ――外で、やや強い雨が降りだした。

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