第51話 タケシ・ヤギから見たマギヤ・ストノスト

 プリストラやウリッツァに頼まれて、元俺とプリストラこっちの部屋にやってきたマギヤさんを出迎える俺の名前は、タケシ・ヤギ。

 ここに入学して間もない時期、マギヤさんに、なにかうたぐるような妙に怖い目で見つめられたこともあったけど、今では時々なぜか哀れむような視線を送られる程度で済んでいる。まあ、俺のことは別にいいんだ。



 マギヤさんとの最初の三日は、部屋に入って早々、下のベッドで寝たいって頼んできたり、ヴィーシニャさんとのこの頃について聞いて「そっちの副班長のメルテルさん等から何も聞いていないのですか?」って言われた以外に、これといって変わったことはなかったけど……その翌日からが、ちょっと……例えば。


「ウリッツァ、今日の宿題やりましたか?」

「もうやったけど……俺、タケシだよ。そういうマギヤさんは……今やってるのか」

 俺はちょっとした好奇心でマギヤさんの宿題を覗いてみて……地味に後悔した。


 数学の宿題だったんだけど、解く過程の欄にびっしり「ウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァ」みたいに書いてあったどころか、回答欄までウリッツァで埋まってたから……しかもこの宿題を提出した後、マギヤさんが数学の先生に呼び出されてたけど……多分叱られたな、帰ってきた本人は特に何も言わなかったけど。


 他にも学園のある日の朝、自分で制服のネクタイを締める俺を見たマギヤさんが

「ウリッツァ、ネクタイ整えてあげましょうか?」

 って聞いてきたから断りつつウリッツァじゃないことも言及したら

「そんなことおっしゃらずにしめさせてくださいよ。私が貴方を絞めたいんです」

と、地味に物騒なことを言い出してきたので「おい、今『貴方』って言ったか!? 俺の空耳か?!」とツッコミを入れざるをえなかった。


 それから、シャワー中に入ってきて

「あれ、ウリッツァ……なんというか、全体的に縮みました? それになぜか髪も黒いですし……あの人……ならもっと縮んで見えるはずですし……?」

 目を細めたり首をかしげたりするマギヤさんに「俺、タケシなんだけど……」って言ったら「ああ……失礼しました」って頭抱えながら出ていったこともあった。


「ウリッツァ」「だから、タケシだって」

「タケシさん」「いや、ウリッツァ……間違えた、タケシで合ってた!」

 とまあ、ざっと五回に四回ぐらい、俺のことをウリッツァって呼び間違えてきた。


 しかも、最低一回呼び間違えられる被害はプリストラと正解であるウリッツァ以外の男――他の班員や生徒はもちろん、先生や聖女邸とかで働いてる人に至るまで――全員に及び、担任の先生にも呼び出されて心配されたって本人も言ってたぐらいだ。


 あと、事前にウリッツァから「ここ最近のマギヤは寝言が凄まじかったり、叫んで起きたりしてないから大丈夫」みたいなことを聞いてたのに……

「ウリッツァ……ウリッツァ……、――ウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァウリッツァ――」

 いや、寝言凄まじいって! 合計三十二回はウリッツァって呼んでたぞ?!


 まあ、そんなわけで、俺、今からウリッツァとプリストラの部屋に行って元に戻してもらえないか、頼みに行こうと思う。

 二人の部屋のドアをノックして、ドアを開けて俺を出迎え、部屋の奥に案内してくれたのは、俺の元同室者のプリストラ。

 下のベッドに座るウリッツァに用件を話す。

「そうだな、もう十日ぐらい経つし、オレは安心して眠れてるし……マギヤがここ最近、妙にオレとの距離をとってるのがちょっと気になるけど、戻ったときに聞けばいっか」

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