第28話 『彼』心と秋の空

 ある休日、ウリッツァは、体調不良気味のマギヤに代わって、もうすぐ使い切りそうな文房具などの補充をするべく、一人で町を歩いていた。

 あとは帰るだけと気楽に歩いていたウリッツァは、前から来た少年に気付かずぶつかってしまう。

「ああ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」

 先に謝ったのは少年の方だった。ウリッツァはこの少年をなんとなく覚えていた。

 海の家でうっかりぶつかってしまったかき氷の少年だ。

「ああ、こっちこそすまない。こっちは特に怪我してないけど、少年はどうだ?」

 ボクも大丈夫です、と言った少年に、それならよかった、じゃあな! とウリッツァは少年……もとい彼に別れを告げる。



 彼は家に帰り、手洗いうがいの後、洗面所の鏡を見つめる。

「少年、ね……あいつにボクの年とか本当のことをいろいろ言ったらどんな反応するんだろ」

 しばらく想像して今考えても仕方ないと小さく笑った彼はリビングで、

ただいまチェルシー、と声をかける。

 チェルシーは笑顔で、おかえりの後に彼の名前を呼んだら彼に抱きしめられた。

 少女の匂いは彼の愛しの今は亡き祖母の匂いと同じような匂い、背丈も祖母と同じくらい。

 ただ伸びてきたとはいえ、彼が初めて見かけたときよりは短い波うつ髪と、不意の抱擁に戸惑う瞳は桜色の少女。


 彼はチェルシーに、今日はどうしたの、と尋ねられた。

「幸せだなぁ、って思ってさ。キミはボクの言うことをちゃんと聞いてくれるし、勝手に離れていかないし、心身ともに清らかで……って、わがままなことばっかり言ってるね……とにかく、キミの存在が尊く愛おしく感じる」

 チェルシーの柔らかくふんわりとした指通りのいい髪を撫でながら、うっとりそう言った後、ずっとこのままでいたいな、などとつぶやいてチェルシーに顔を埋める彼。

 

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