兄貴が活躍したのよ!

 私は箕輪まどか。女子高生の霊能者だ。ちなみに美少女である。


 何か、納得がいかないけど、まあ、いいわ。


 


 私達の通うM市立第一高校。


 ごく普通の高校なのだが、何だかおかしな気が漂っている。


 そのせいなのか、私と私の彼の江原耕司君は、どう考えてもおかしいくらい人気者になっている。


 え? お前が人気者だなんて、世も末だな、ですって? そこまで言うの? ううう……。


 それはともかく、親友の近藤明菜の様子がおかしくなり、彼氏の美輪幸治君が死にそうなくらい落ち込んだので、一計を案じた私は、江原ッチの家に電話して、未来の義理のお母さんになる菜摘さんに来てもらおうと思った。


 ところが、いざ電話をかけてみると、出たのは義理のお父さんの予定である雅功さんだった。


 雅功さんは私の気から全てを読み解くという優れた能力の持ち主なので、江原ッチの所業まで全てわかってしまい、悪い事をしたと思っている。


 これで江原ッチは過酷な修行の旅にでるのは確定だからだ。ごめんね、江原ッチ。


 そんな事を考えているうちに、放課後になり、校門の前で雅功さんを待っていると、G県警のパトカーで現れた。


 しかも、運転していたのは、私の愚兄の慶一郎だったのだ。


 どうゆう事? それから、ちょっと戻るんだけど、「一計を案じる」って楽しいの?



 パトカーを降りた雅功さんは、校舎全体を見渡した。


「何があったんだ、まどかちゃん?」


 美輪君が江原ッチと姿を見せた。まだ顔色が悪いが、朝よりは血色は良くなっている。


 私は江原ッチをチラッと見てから、美輪君に事情を話した。


「そうなんだ……」


 何故か落ち込む美輪君。更にどうゆう事?


「美輪の奴、明蘭さんが来ると思って喜んで来たんだよ」


 江原ッチが教えてくれたが、そう思わせたのは君だろう、と突っ込んでやりたくなった。


 雅功さんの話では、今回の件は、女性では解決は難しいとの事。


 菜摘さんでも無理らしいから、神田原明蘭さんでもダメだろう。


 でも、どうしてなのかしら?


「何の騒ぎ?」


 そこへ明菜が現れた。何故かビクッとする美輪君。今朝、


「はあ? 誰、あんた?」


 そう言われたので、明菜に対してすっかり萎縮してしまっているのだ。


「江原、明蘭さんの事はアッキーナには絶対内緒だぞ」


 美輪君が江原ッチに囁くのが聞こえた。バカ男共め! 天罰が下ればいいのよ。


「箕輪さん、お願いします」


 雅功さんが微笑んで兄貴を見た。兄貴はもうこれ以上はできないというくらいの気取った顔で、


「わかりました、江原先生」


 そう言うと、明菜の前に進み出た。


「誰、あんた?」


 明菜がそう言って兄貴を見上げた。江原ッチと美輪君は顔を見合わせている。


「お嬢さん、君にはそんな顔は似合わないよ。君の笑顔を見せてくれないか?」


 背筋がどこかに飛んでいってしまうのではないかというくらいの臭い台詞が兄貴の口から飛び出した時は、兄妹の縁を切ろうと思ったほどだ。


「はい、そうですね」


 ところが、不機嫌の化身のような顔だった明菜が、笑顔満開になり、頬を朱に染めた。


 な、何ですと!?


「やっぱり、その方が可愛いよ」


 兄貴は明菜の頭を撫でた。


「ありがとうございます」


 明菜は嬉しそうに兄貴を見ている。美輪君は唖然とし、動かなくなっていた。


 次の瞬間、たくさんの女子達が兄貴に駆け寄り、またたびを食べた猫みたいになってしまった。


「まどかさん、黒幕を探りますよ」


 女子高生に取り囲まれて鼻の下が今世紀最長になっている兄貴を見ていると、雅功さんが近づいて来て言った。


 兄貴がモテ期に入ったのは、雅功さんの感応力のお陰のようだ。


「黒幕?」


 私はハッとした。そうだ、この一件、生徒会副会長の高橋知子さんが首謀者なのだ。


 そう思ったのだが、よく見ると高橋さんも兄貴にメロメロになっていた。


 またしても、どうゆう事?


「黒幕は彼女ではありませんよ」


 雅功さんに笑顔で言われ、私は恥ずかしさで顔が熱くなった。


「む?」


 雅功さんは校舎を目指していたのに歩みを止め、再び周囲を見渡した。


「気の流れが消えた。どういう事だ?」


 雅功さんは眉をひそめた。


「敵はかなりの切れ者ですね。尻尾を捕まれないように細心の注意を払っているようです」


 雅功さんは黒幕の追跡を諦めたようだ。


「無理に追い詰めて、思いもよらない反撃を食らうのもまずいですから、今回はここまでにしておきましょうか」


 雅功さんは、兄貴にかけていた感応力を解いた。


「あれ? 私どうしたのかしら?」


 女子達は皆首を傾げて去って行った。それを見て兄貴が項垂れたのは言うまでもない。




 しばらく落ち込んでいた兄貴が復活したところで、雅功さんが種明かしをしてくれた。


「箕輪さんには、元々女性を惹きつける能力があるようです」


 雅功さんが真顔で言ったので、私は苦笑いした。能力なのか、あれは?


「ですから、その力をちょっとだけ私の力で援護しただけで、あそこまで効果が出たんですよ」


 雅功さんに誉められたので、兄貴はニヤニヤしている。


「いやあ、それほどでもお……」


 バカ兄貴の復活だ。もう身内として恥ずかしい。


 つまり、女性を虜にしている気が出ているので、女性では解決は難しかったという事らしい。


 女性を虜にする気を出している敵に対抗するには、兄貴の抜きん出たエロパワーしかなかったのだ。


「もう、美輪君、いつまで落ち込んでるのよ」


 元に戻った明菜が別の理由で落ち込んでいる美輪君を慰めている。


「江原先生、是非私を弟子にしてください。そうすれば、もっとお役に立てると思います」


 兄貴が真顔になって言った。だが、長年この男を観察してきた私には腹の底が見える。


 多分、女性にモテモテになりたいだけなのだ。本当にどうしようもない。


「じゃあ、俺も」


 美輪君と江原ッチが言ったので、明菜と二人で絶対零度攻撃をした。


 本当に男って生き物は! 


 


 黒幕の正体が気になるまどかだった。

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