私は人気者なのよ!
私は箕輪まどか。念願叶って遂に憧れの女子高生になった。
いやいや……。別にそんなに熱望していた訳じゃないし。
え? その割には、一生懸命スカート丈詰めて、姿見の前でクルクル回っていたな、ですって?
な、何でそんな事知っているのよ? さてはストーカーね?
誰に頼まれたの? エロ兄貴の先輩の鑑識の宮川さんは、
「女子高生になったら興味ない」
そう言ってたから、容疑者リストから外れるし。別の意味で危ないけど。
私の通っているM市立第一高校は、一学年六クラスで、男女合わせて二百四十人。
合格ラインの関係で、きっちり半分ではないので、どちらかが多かったりする。
何故か、私と彼の江原耕司君は、入試の時から名前を知られていて、
「同じ学校に入りたくて受験しました」
そんな事を女子男子問わずに言われた。何だかむず痒かったが。
「何でそんな事を知られているのかな?」
その時はちょっと不思議に思ったくらいで、あまり深く考えなかった。
それがのちのち大変な事になるとも知らずにね。
特に江原ッチは、可愛い女の子にそう言われてヘラヘラしていた。
「江原耕司様、後程お話があります」
親友の近藤明菜直伝の絶対零度の声で背後から囁いた。
「ひいい!」
江原ッチはすぐに会心の土下座をして謝罪したので許してあげた。
そして、現在。
私と江原ッチに対する憧れの眼差しは、入学後しばらく経っても続いていた。
それどころか、上級生にもメルアドが書かれたメモを渡されたり、
「ラインしてます?」
そんな事も訊かれた。
「これはちょっとおかしいよ、江原ッチ」
同じ高校には入れたが、クラスは別になってしまった私は、江原ッチが心配だったので休み時間のたびに覗きに行っていた。
ちなみに私と同じクラスなのは美輪幸治君で、明菜の彼。で、私は一組。
本当にちなみになんだけど、肉屋の力丸卓司君は江原ッチと同じクラスで、三組。
明菜は六組で、何故か私と美輪君の事を心配していた。そんな事、ある訳ないのにね。
「そうだね。考えてみたら、入試の日に俺達が受験するのを知っていたのも変だよな」
江原ッチはそこまで遡っていた。確かにそうかも知れない。
「まどかりんがモテるのは仕方がないけど、俺がこんなに女子に注目されるなんてあり得ないよ」
さり気なく私を持ち上げてくれる江原ッチ。え? 重いだろう、ですって?
失礼ね! 私は重くないわよ! それにその「持ち上げる」じゃないの!
「江原君と箕輪さんて、本当にお似合いね。私も素敵な彼が欲しいわ」
江原ッチのクラスメートの女子の一人が言うと、他の女子達が大きく頷いた。
(何だろう、この妙な気は?)
私は彼女達に愛想笑いをして、江原ッチを引っ張って誰もいない教室に入った。
「な、何、まどかりん?」
妙にソワソワしている江原ッチは、何を期待しているのだろうか?
「江原ッチ、おかしいわ。さっき、あの子が私達の事を話した時、周囲に妙な気が漂って、そばにいた女子達を取り込んでいたわ」
江原ッチは自分が勘違いをしていたのに気づいたのか、顔を赤くして、
「そ、そうだね。こんな時、靖子がいてくれたらなあ」
靖子とは江原ッチの妹さん。感応力にかけては、私達も敵わない。
靖子ちゃんがいれば、確かに気を辿って、誰が張本人なのか突き止められるはずだ。
気を発したのが、その女子ではないのはわかっている。
しかし、そこから先が全く見えないのだ。五里霧中だ。
え? 「ところで五里霧中って何?」って言わないのか、ですって? 言わないわよ!
もう私も女子高生なんだから、それくらいはわかるのよ。
「靖子に話して、放課後こっちに来てもらうよ」
江原ッチとはまた改めて対策を練る事にして、自分のクラスに戻った。
「どうしたの、まどかちゃん?」
霊能力はないが、野生的な勘が鋭い美輪君が話しかけてきた。
私は明菜に、
「私がいないところで美輪君と二人で話さないで」
そんな嫉妬に塗れた警告を受けている。今は教室の中だし、二人きりじゃないから、構わないわよね。
美輪君も、実際のところ、明菜の嫉妬深さには参っているらしいわ。
私は掻い摘んで美輪君に事情を説明した。
「なるほど。確かに江原が俺よりモテるのは解せないと思っていたんだ」
真顔でそんな事を言う美輪君をつい半目で見てしまった。
「あはは、今のは絶対にアッキーナには内緒ね?」
美輪君は小動物のように震えながら言った。私は苦笑いするしかない。
M市の高校生で、美輪君と一対一で喧嘩をして勝てる人はいないって江原ッチに聞いた事がある。
それも、まだ中二の時。
その美輪君が、明菜にはビビるんだから、高校生で一番強いのは明菜で正解かもしれない。
そんな呑気な事を考えていられたのも、放課後までとは夢にも思わないまどかだった。
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