エロ姉ちゃんはエロ姉ちゃんじゃなかったのよ!
私は箕輪まどか。中学生にしてG県警霊感課の捜査員という肩書きを持つ美少女霊能者だ。
ちょっと、おこがましいかも知れないけど、何か言うとまた意地悪されそうだからノーコメントね。
ところで、ノーコメントって何?
邪教集団である復活の会の三代目宗主を名乗る神田原明鈴の仕掛けた罠に見事に嵌ってしまった私達は、ピンチを迎えていた。
そこに親友の近藤明菜の彼氏である美輪幸治君が現れ、一発逆転したかと思われたのだが、明鈴の反則技で美輪君が気絶してしまい、またピンチに戻ってしまった。
「貴女には恥じらいというものがないの!?」
私の将来の義理のお母さんになるはずの江原菜摘さんが明鈴に怒鳴った。
菜摘さんが険しい表情になるのはあまり見た事がない。
「恥じらいなんてものがあっても、金は貯まらないし、腹も膨れないからね」
明鈴はこれ以上はないというくらいムカつく笑みを浮かべながら言い放った。
菜摘さんはその奇麗な顔を怒りで歪ませていた。悲しいから、そんな顔をしないで欲しい。
「ありがとう、まどかさん。気をつけるわ、未来の耕司のお嫁さん」
菜摘さんは微笑んでそう言ってくれた。しまった、心の声を全部聞かれていたんだ。
もう茹で蛸も裸足で逃げ出すくらい顔が赤くなったと思う。
え? 茹で蛸は逃げないって? 細かい事で突っ込まないでよ!
「そのガキもなかなかのイケメンだから、私の子作りに協力してもらう事にするよ」
明鈴はまた臆面もなく、自分の実年齢も忘れてとんでもない事を言った。
「また五月蝿いんだよ、クソガキ! 本当に殺すよ!」
明鈴は鬼の形相で私を睨んだ。
美輪君は黒尽くめの男達に縛り上げられ、部屋の隅に転がされた。
このまま手をこまねいていると、何も知らない江原ッチがやって来て、また明鈴の乳で気絶させられてしまう。
どうしたらいいの?
「まどかさん、力を貸して!」
菜摘さんがいきなり全力全開の戦闘態勢に入った。
「私の邸の中で力を使うと何が起こるかわからないよ、江原菜摘」
明鈴がニヤリとして妙な事を言った。
「インダラヤソワカ」
菜摘さんは私の気を吸収しながら帝釈天真言を唱えた。雷撃が明鈴に向かった。
「エロイムエッサイム」
明鈴はエロエロな呪文を唱えた。
「誰がエロエロな呪文だ! これは悪魔を呼び出すために黒い雌鶏を引き裂いて唱える呪文だよ、バカガキ!」
その呪文のせいなのか、雷撃は明鈴には当たらず、壁を焦がしただけだった。
「く……」
それを見て菜摘さんが歯軋りした。
「ここは私のホームグラウンドだ。あんたらの術は自由には使えないよ」
明鈴は目の周りに小皺を浮かべてドヤ顔で言い放った。
サッカーでもアウェーはきついと聞く。霊能力でもそうなのだろうか?
「邸全体に呪術がかけられていて、明鈴の力を増大させているようです」
菜摘さんが囁いた。って事は、私達はやばいという事ですよね?
「そしてもう一つ」
明鈴がそう呟いた時、壁に当たって消えた雷撃が焼け焦げた箇所から発生し、菜摘さんを襲った。
「何ですって!?」
菜摘さんは素早い身のこなしで私を抱きかかえて跳躍した。そこに雷撃が落ち、床が焼けてしまった。
「あんた達の術は全てあんた達に返る。それでもいいなら、ドンドン攻撃して来なさいな」
明鈴は更に年季の入った顔で得意そうに言った。
「年季とか言うな!」
私の悪口を聞き逃さないのは凄いと思う。
「ならば!」
菜摘さんは私を明鈴達から一番離れたところに残して飛んだ。
「そう来ると思ったよ!」
明鈴も飛んだ。二人は空中で交錯した。菜摘さんの手刀が空を切り、明鈴の跳び蹴りが菜摘さんを捉えた。
「ぐう!」
菜摘さんは苦痛に顔を歪めて着地し、口から血を吐いて膝を着いてしまった。
「菜摘さん!」
私は思わず叫んだ。明鈴は悠然と床に降り立つと菜摘さんを蔑むような目で見下ろし、
「邸の中では私が最強なんだよ、オバさん。まだわからないのか?」
憎らしい笑みを浮かべている。
「年上にオバさんとか言われたくないわね!」
菜摘さんは唇に付いた血を手で拭いながら立ち上がった。
「貴女は私を随分と見くびっているようだけど、それが誤りだと教えてあげるわ!」
菜摘さんの身体から暴風のような気が噴き出した。
懐かしいあのボクッ娘の柳原まりさん以上の超絶な気の流れだ。
「む?」
明鈴の顔の小皺が倍増した。
「ガキ、やかましい!」
そんな時でも私に突っ込むのを忘れないのはさすがだ。
「これでもさっきと同じ事が言えるかしら、オバさん!」
菜摘さんがフッと笑って言い返し、明鈴に風を巻いて突進した。
「はああ!」
菜摘さんの攻撃が明鈴を圧倒していく。
「おのれ!」
明鈴もとうとう余裕の笑みを封印し、菜摘さんと打ち合った。しかし、菜摘さんの優位は変わらない。
「もう寝ていなさい、明鈴!」
菜摘さん突きが明鈴の鳩尾に決まった。
「ぐふう……」
明鈴の口から何かが噴き出した。どうやら胃液らしい。うわ、汚い。
「これでおしまい!」
菜摘さんが手刀を振り上げた時だった。
「キャッ!」
いつの間にか私の背後に回り込んだ黒尽くめの男達がまた私を羽交い締めにしたのだ。
「宗主様を放せ。さもないと、このガキの首をへし折るぞ」
男の一人が私の首を掴んだ。息ができなくなりそうだ。
菜摘さんは悔しそうな顔をして明鈴から手を放した。
「とことん詰めが甘いね、あんた達は」
そうは言いながらも、菜摘さんの突きが効いているらしく、明鈴は
「ガキは預かっていく。あんたとの決着はこの次にしておくよ」
明鈴は黒尽くめの男達に目で合図し、私を捕えたままでそばに呼び寄せた。
「まどかさん……」
なす術がない菜摘さんを見て、私は涙が零れそうになった。
「待て、神田原明鈴! まどかりんを放せ!」
私の彼氏の江原耕司君の声がした。来てしまったのだ。死ぬ前にもう一度会えたのは嬉しいけど……。
「ほう、ノコノコと騙されてやって来たのかい、あんた? バカだねえ、親子揃ってさ」
明鈴はそう言いながら江原ッチを見た。その途端、彼女は目を見開いた。
「お、お前がどうしているんだ!?」
私は首を何とか江原ッチの方に向けた。すると江原ッチは腰まである長い黒髪の奇麗な女の人と一緒にいた。
え? 江原ッチの隣にも、明鈴がいる? どういう事? 別人?
「久しゅうございます、母上」
明鈴にそっくりなその女性は服装からして違っていた。
上から下まで黒一色なのは同じだが、くるぶしまで隠れる長いスカートのワンピースだ。
袖も手首まであり、肌で見えているのはほんの一部である。誰なの?
「
明鈴の小皺がまた増えた。しかも、私に突っ込むのを忘れるほど気が動転しているようだ。
「一旦引くよ!」
明鈴は私を一睨みしてから解放させ、黒尽くめの男達と逃げてしまった。
「母さん、大丈夫か?」
江原ッチが菜摘さんに駆け寄る。私もハッとして菜摘さんに近づいた。
「ありがとう、耕司。父さんは説得に成功したのね」
菜摘さんは謎の美女を見てそう言った。
「え? どういう事ですか?」
私にはチンプンカンプンだ。すると江原ッチが、
「まどかりん、紹介するよ。僕達の強力な味方になってくれる、神田原明蘭さんだよ」
その名を聞いて私は目を見開いた。
「かんだはらめいらんさん?」
鸚鵡返しに口にしてしまった。
「神田原明蘭です。明鈴は私の母です」
明蘭さんは明鈴の娘? じゃあ、明鈴はやっぱり「エロ姉ちゃん」じゃないのね?
いや、そこはどうでもいい事だった。それにしても何て展開なの?
さすが、何も考えていない作者ね。
混乱必至のまどかだった。
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