敵に背後をとられたのよ!
私は箕輪まどか。中学生の美少女霊能者。
今は忙しいので、自己紹介に突っ込むのはやめにしとくわね。
私達はG県をあとにし、新潟県の村上市に向かった。
え? どうして、G県なのに、新潟県はN県じゃないの、ですって?
私がどこに住んでるのかわかったら、まずいでしょ! だからなの。
お前がどこに住んでいようが、日本の大半の国民には関係ない、ですって?
フンだ!
「あ」
運転している小松崎瑠希弥さんの携帯が鳴り出した。
「出てくれる、さやかさん」
瑠希弥さんは胸のポケットに入っている携帯を目で示して言った。
「はい」
助手席の綾小路さやかが携帯を苦労して取り出した。
どうしてすんなり取り出せなかったのかは、十五禁になるので描写しないわよ。
「はい、綾小路です」
さやかが応答した。そして、ギョッとして私を見た。
「な、何?」
私は理由がわからず、さやかに尋ねた。
「後ろ!」
さやかは私ではなく、瑠希弥さんの車の後ろを走っている黒い車を見ていたのだ。
「さっきから、ずっとつけられているみたいです」
さやかが言う。瑠希弥さんはルームミラーで後方を確認して、
「全然気づかなかったという事は、何かを施しているという事ね」
私とさやかは思わず顔を見合わせた。
「はい、わかりました」
さやかは携帯を切り、
「ここでは危険だから、高速を降りてから相手をしましょうとの事です」
「わかりました」
瑠希弥さんは携帯をさやかに預け、運転に集中する。
私は相手に気取られないように身を屈めて後ろの車を見る。
乗っているのは、あまりお会いしたくないような無精ひげのオヤジ四人。
何故か、オヤジたちは霊能者かどうかわからない。
「まどかさん、高速をもうすぐ降りるわ」
瑠希弥さんが言った。
「はい」
私は前を向き、シートベルトをかけ直す。
前を走る江原雅功さん達の乗る車が終点の一個手前のインターチェンジ出口へと車線を変更する。
瑠希弥さんもそれに倣う。
すると、予想通り、ムサオヤジ達の車もついて来る。
「やっぱりね」
瑠希弥さんはミラーで見ながら言う。
私達の車はETCが着いているので、すんなり料金所を通過。
ムサオヤジ達の車は違うらしく、料金所で停まっていた。
「やったあ!」
私とさやかは思わずハイタッチした。
こいつとこんな事する時が来るなんて、思ってもみなかったけど。
「貴女の心の声、全部聞こえてるんだけど、まどか」
さやかがムッとした顔で私を見た。
「あはは」
私は無理とは思ったが、笑って誤魔化そうとした。
私達の車は、ムサオヤジの車をまくためにあちこち細い道を進んだ。
「これでもう大丈夫でしょう」
路肩に車を停め、しばらく様子を見てから、雅功さんが言った。
「それにしても、間抜けな連中だよね」
江原ッチと美輪君が大笑いする。
しかし、敵もさるもの、ひっかくもの(とお父さんが大好きなフレーズで言ってみたわ)だったのだ。
私達は元のルートに戻り、一路村上市を目指した。
「情報では、海沿いにある
瑠希弥さんが言った。
「アルプスの少女じゃないわよ、まどか」
さやかが、私のボケを封じる事を言った。
「ちっ」
思わず舌打ちしてしまう。瑠希弥さんはクスッと笑い、
「まどかさんて、本当に楽しい人ね」
「あはは」
何だか泣きそうだ。
「だって、女の子だもん、とか言わないでよ」
「……」
またさやかに先に言われてしまった。
段々こいつの事が嫌いになりそうだ。
「え?」
さやかがドキッとした顔で私を見る。しかも、涙ぐんでいる。
「ああ、そんな事ないよ。全然気にしてないから」
私は瑠希弥さんの手前、事を荒立てたくないので、慌ててそう言った。
「うっそー」
さやかはニヤリとした。
「あんたねえ!」
私がさやかに掴みかかろうとした時だ。
「え?」
前方から、強烈な気を感じた。
「何?」
私とさやかはほぼ同時に前を見た。
「誰?」
瑠希弥さんは、雅功さんの車が停止したので、その後ろに車を停めた。
「何者?」
道路の真ん中に大きな笠を被って黒い袈裟を着たお坊さんが立っている。
「危ねえぞ、坊主。どけよ」
気の短い美輪君がいきなり怒鳴る。
「ここから先は行かせぬぞ」
そのお坊さんが言った。どういう事よ?
「なるほど、早くもお出迎えですか?」
雅功さんが余裕の笑みで応じた。
ところがだ!
「きゃっ!」
私とさやかはいきなり後ろから羽交い絞めにされてしまった。
「く!」
瑠希弥さんは辛うじて振り払ったようだ。
「あ、あんた達は!?」
臭い息を頭から浴びせられながらも、私は相手の顔を見た。
それは、さっきまいたはずのムサオヤジ達だったのだ。
「まどかりん!」
江原ッチが叫ぶ。
「さやかさん!」
瑠希弥さんが叫ぶ。
「こンのヤロウ!」
美輪君が振り返って駆け出す。
「いけない、美輪君」
瑠希弥さんが美輪君の腕を掴んで止めた。
明菜、そこで嫉妬しないの!
「うまくまいたつもりだったのだろうが、残念だったな」
ムサオヤジの一人が、瑠希弥さんの車に近づき、車の後ろに付けられた小さな機械を取った。
「発信機か?」
江原ッチが歯軋りした。
「お前らは機械には疎いからな。それにこの発信機にも、仙一様のご加護がある」
ムサオヤジはドヤ顔で言った。
仙一って言っても、楽天の監督じゃないわよ。
サヨカ会の宗主だった鴻池大仙の息子だ。
私達が退治に行くのが、そいつである。
「挟み撃ちにするつもりが、挟まれていましたか……」
雅功さんの顔から笑みが消えた。
え? って事は、マジでヤバいの?
突然ピンチのまどかだった。
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