瑠希弥さんと旅に出たのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。


 もうすっかり、「美少女」を封印したい気分。


 小松崎瑠希弥さん。


 あの人と話していて、私がどれほど思い上がっているのか、よくわかった。


 え? 今頃気づいたのか、ですって?


 フンだ!


 瑠希弥さんは謙虚だ。あの謙虚さが私にはない。


 だからこれからは謙虚になろうと思う。


 え? 似合わないからやめろ? そんな事をしたら、瑠希弥さんに主役の座を奪われる?


 そうかも。あの極悪な作者の事だから、考えられなくもない。


 


 そして、土曜日の朝。


 私はまだベッドの中でまどろんでいた。


「おい、まどか、瑠希弥さんが来ているぞ」


 エロ兄貴に揺り動かされて、私は目を覚ました。


「え?」


 また兄貴の奴、私の部屋に無断で侵入してる!


「お兄ちゃん、いい加減にしてよ! 怒るわよ!」


「いくら呼びかけても、いびきを掻いて寝てたのは誰だよ」


 兄貴は悪びれもしない。


「失礼ね、私、イビキなんか掻かないわよ!」


「どうして自分でわかるんだよ」


「美少女はいびき掻かないの!」


 あ、言ってしまった、美少女って。


「とにかく、急いで着替えろ。瑠希弥さんを待たせたら悪いぞ」


「だったら早く出て行け、変態兄貴!」


 私は兄貴の足を踏みつけて、ようやく撃退し、着替えた。


 階下したに行くと、瑠希弥さんは居間のソファに座っていた。


 そして何故か里見まゆ子さんもその向かいにいる。


「あ、おはようございます」


 私が怪訝そうな顔で挨拶すると、まゆ子さんは、


「ああ、偶然小松崎さんと道で会ったので、ここまでご案内したの」


と訊いてもいないのに答えてくれた。多分、瑠希弥さんを尾行していたのだろう。


 まだ心配なのかな、兄貴の事。


 まあ、今までが今までだから、仕方ないか。


 この状況だから、兄貴が起こしに来たのね。


 いくら兄貴でも、瑠希弥さんとまゆ子さんに挟まれた状態では、怖過ぎて心臓が停止しかねないからね。


「そうなの。助かりました、里見さん」


 瑠希弥さんは全然まゆ子さんの心の内など知らないようだ。


 探ろうとすれば、全部わかってしまうのだろうが、瑠希弥さんはそういう事はしないみたい。


「えっと、瑠希弥さん、私にご用なんですか?」


 私はまゆ子さんの隣に座った。これが最善の選択だと思う。


「ええ。これから、西園寺先生のところにお伺いするの。一緒に行きませんか?」


「え?」


 蘭子お姉さんに会いに行く? これは何としても行きたい。


「は、はい、是非!」


 私は身を乗り出して答えた。まゆ子さんはホッとしたようだ。


「未成年者二人だけの旅行は危ないな。保護者がついて行かないと」


 急に姿を現す兄貴。エロ度がアップしている顔だ。


「そうですね。私、暇だから、一緒に行けるわよ、まどかちゃん」


 まゆ子さんが鋭い一瞥を兄貴に向け、威嚇した。兄貴はスゴスゴ引き下がる。


 するとその一触即発の状況を気づかないのか、


「大丈夫ですよ、私達だけで」


と瑠希弥さんがあっさり却下した。でもまゆ子さんはニコッとした。


 なるほど、まゆ子さんは兄貴の「暴走」を阻止するために言っただけなのか。


 あれ? 兄貴、本当に心配みたいだ。


 つい兄貴の心を覗いてしまった。


 ごめんね、お兄ちゃん。まどかはもう大人だよ。


「では、行きましょうか、まどかさん」


 瑠希弥さんが立ち上がった。


「え? 今すぐですか?」


「はい」


 私は面食らった。


「着替えますから、待ってて下さい」


 私はジャージ上下なので焦った。


 


 こうして私と瑠希弥さんは、買ったばかりのバリバリのスポーツカーで、蘭子お姉さんのいる山形へと向かう事になった。


 兄貴は最後までふざけていたが、本当は可愛い妹が心配なのだ。


 お土産くらい、買って来てあげよう。


 取り敢えず、私はお小遣いの中から五千円を出した。


 瑠希弥さんはお金なんかもたなくてもいいからって言ってくれたけどね。


「さあ、行きましょうか」


「はい」


 グワン! 何だか、もの凄いエンジン音を響かせて、車が発進した。


 気がつくと、私達はすでに高速に乗っていた。


「瑠希弥さんて、走り屋なんですか?」


 私は、あまりに凄い運転なので、顔を引きつらせて尋ねた。


「ううん、ペーパードライバーなの」


「……」


 血の気が引いた。


 運転が乱暴なのではなく、下手?


 


 無事に山形まで辿り着けるのか、不安なまどかだった。

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