凄い生霊が現れたのよ!
私は箕輪まどか。小学校を卒業し、四月からは大人の女になるの。
中坊が何抜かしてんねん! とか、あの関西のおばさんに言われそうだ。
実は暇である。
牧野君とは、卒業式以来全く連絡をとっていない。
何? 友達いないのかって? うるさいわね。
たくさんいるわよ。何よ、バカにして!
そんな事で、今日は親友の近藤明菜の所に来ている。
え? 相方? 誰が女芸人なのよ!?
明菜は、私には敵わないけど美少女なんだから!
二人で街を歩けば、男の子なんてイチコロよ。
え? 歌が古い? 魔女っこ? 何の事よ、私は平成生まれよ!
メグちゃんなんて知らないわよ!
「何一人で話してるの、まどか?」
ほらごらんなさい、明菜の冷静な突込みが入ったじゃないの。
彼女は私と違い、霊感はない。でも、頭は私と同じくらい良い。
え? 大した事ない? だからそういうチャチャ入れないでよ、話が進まないから!
「このままずっと部屋で貴女の独り言聞いているの、嫌なんだけど?」
明菜は腕組みをして私を見る。その視線が冷たい。
「じゃあ、どこかに出かけようか、明菜?」
私の提案に明菜は、
「私が出かけようとした時に貴女が来て、部屋で遊ぼうって言ったのよ」
とまた冷静に突っ込む。私は苦笑いするしかない。
「ごめん。やっぱり出かけよう、明菜。若者が部屋にいるなんて寂しいわ」
私の言葉を半目で見ている。明菜はどうしてこんなに大人びているのか。
羨ましいまどかだった。
そんな事で、私達は明菜の家を出て、ゲームセンターに向かった。
「ボウリングでもしようか、明菜」
「二人でしてもつまんないわ」
「じゃ、男子を呼ぶ?」
私は愛想笑いをして尋ねた。しかし明菜は、
「私、男嫌い。あいつら、嫌らしい事しか考えていないんだもの」
「そ、そうね」
明菜は、男子に何度もスカート捲りをされて、「同級生の男はクズ」と思っている。
私みたいに思いっ切り蹴り上げてやればいいのよ。そうすれば二度と捲られないから。
「それよりさ」
明菜は急に目をキラキラさせた。
「な、何?」
私はドキッとして明菜を見る。すると彼女は、
「貴女のお兄さん、今どうしてるの?」
と顔を赤らめて言った。
はあ? 何言ってんのよ、明菜? エロ兄貴は今日は……。
「おう、まどか。こんなところで会うなんて奇遇だな」
何故か目の前にいたエロ兄貴。しかも同僚の里見まゆ子さんもいる。
「ああ、お兄ちゃん。もしかして、まゆ子さんとデート?」
私はすかさず突っ込む。するとエロ兄貴は、
「違うって。里見さんは俺になんか興味ないよ。ね、里見さん?」
うわあ。そんな事言われたら、まゆ子さん、泣いちゃいそう。
「そ、そんな事ないですよ」
まゆ子さんは苦笑いして答えた。頑張れ、まゆ子さん!
「まどかちゃんのお兄様ですか?」
そこへ強引に割り込む明菜。あんたねえ……。
「あ、君、まどかの友達の明菜ちゃんだよね? まどかと違って可愛いなあ」
「あら、そんな事ありませんわ」
何なの、このバカ二人は? もしかして、明菜ってエロ兄貴が好みのタイプ?
変だ。絶対変だ。
うん? おかしい。明菜の身体に何か別のものが憑いてる。
もしや、生霊?
「誰、あんた?」
私は明菜に取り憑いている生霊に話しかけた。
「おや、気づいたようだね」
明菜は急に口調が変わり、顔つきまで変わった。
「な、何だ!?」
実はとてもビビりな兄貴は、ビックリしてまゆ子さんにしがみついた。
「ああ、箕輪さん、ちょっと!」
慌てながらも、嬉しそうなまゆ子さん。取り敢えず、おめでとう。
「私は小倉冬子。慶君とは高校時代付き合っていたのよ」
「何ですって?」
私はエロ兄貴を見た。エロ兄貴は首をブンブン横に振っている。
「違うみたいだけど?」
私は小倉冬子さんの生霊に言った。すると冬子さんは急に怒り出した。
「ふざけんじゃないわよ! 最近、慶君たら私の事忘れて、変な関西弁の女とデートしたり、ボーッとした東京女にうつつを抜かしたり、仕事の同僚の、大して胸もない女に色目を使ったりして! 許せないのよ!」
関西弁の女に関しては、私も同意するけど。
ボーッとした東京女って蘭子お姉さんの事? 酷い。
胸のない女って、まゆ子さんの事?
本人はエロ兄貴にしがみつかれたせいで、気づいていないみたいだからいいけど、酷い。
「どうでもいいけど、僻み過ぎなのよ、貴女は! 文句があるなら、お兄ちゃんに面と向かって言いなさいよ!」
私は頭に来たので思い切り怒鳴った。
「それから、私の友達の身体に取り憑いたりしないで!」
私は摩利支天の真言を唱えた。
「オンマリシエイソワカ!」
「ギャーッ!」
小倉冬子さんの生霊は絶叫し、消えた。
それにしても、とんでもなく気性の激しい人だった。
あんな同級生、いたんだ……。
「こ、怖かったよう!」
エロ兄貴は、まだまゆ子さんにしがみついて怯えていた。
まゆ子さんも嬉しそうだから、そのままにしとこう。
「あの……」
蚊の鳴くような声が背後でした。
「は?」
私は声の主を見ようと振り向いた。
そこには、黒縁メガネをかけた、地味ーな女性が立っていた。
服は上下黒で、髪は顔が半分隠れてしまうほど長い。
誰、この人?
「小倉さん?」
ようやく冷静さを取り戻したエロ兄貴が言った。
えええええ!? この人が、さっきの生霊さん?
信じられない。
「ごめんなさい、箕輪さん。許して下さい」
小倉さんはそう言うと、ダッと逃げてしまった。
こうして生霊事件はあっさり解決した。
取り憑かれていた明菜は、私が家に行った事も覚えていなかった。
どうやらここ何日か、冬子さんに操られていたようだ。
まあ、何もなくて良かった。
いや、一つあった。
まゆ子さんが大変なのだ。
エロ兄貴にしがみつかれたので、その後倒れてしまった。
まあ、そのせいで兄貴がまゆ子さんを病院まで連れて行き、まゆ子さんは夢のような時間を過ごせたらしいから、いいんだけどね。
これでまゆ子さんを私のお姉ちゃんにする計画が一歩前進した。
私、応援してるからね、まゆ子さん!
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