ライバルが現れたのよ!

 私は箕輪まどか。小学六年生。将来は病院の院長夫人の地位が約束されている。


 そしてどうやら、私は中学生になるらしい。そして牧野君とも進展が……。


 きゃあああ!


 でも、外野がうるさいので、過激な事はできない。


 で、外野ってどこ?




 そんな訳で、この時期になって何故か転校生。


 また変態男かと思ったら、今度は女子。


 途端にバカ男子共の期待値が上昇する。


 女子達の嫉妬心が渦巻く。


 でも、現れたのは、地味な子だった。


 メガネっ子でポニーテール。


 そう表現すると、一部マニアが喜びそうだが、彼女は本当に地味な子だった。


 その子の名前は、笹木ささきしずか


 自己紹介の声も聞き取れないような子だった。


 例によって、私の隣の席が偶然にも空いていて、静ちゃんはそこに座った。


「私、箕輪まどか。よろしくね」


「……」


 何も言わなかった訳ではなさそうだ。口は動いていた。


 あんたは中森明菜か!?


 そして、隣の席のよしみで、私が静ちゃんのお世話を先生に頼まれてしまった。


(何か変。この子、何だろう?)


 私はそのつもりがなくても、人の過去が見えてしまう。


 見えない時と見える時があるのは、私が興味を持つか持たないかの違いらしい。


 静ちゃんは、性格が暗いのではないようだ。


 何かが、この子を暗く見せている。


 そもそも、こんな時期に転校なんて、絶対妙だし。


(あ……)


 静ちゃんの過去。


 ご両親が亡くなってるのね?


 おばあさんとおじいさん。


 二人共とてもいい人。


 何だろう? どうして彼女、こんなに暗く見えるの?


 もしかして……。


 私は授業が終わると、静ちゃんを誘って使われていない教室に行った。


「ねえ、もしかして、貴女、霊が見える?」


「え?」


 おお、初めて声が聞こえたぞ。


「やっぱり。安心して、私もそうだから」


 静ちゃんの顔が綻んだ。


「やっと、やっとお友達ができる……」


 彼女は泣き出した。


「わわ、どうしたのよ?」


 


 静ちゃんは、霊感が強く、そのため霊が近づきやすいらしい。


 それで、教室で心霊現象が起こってしまい、転校を繰り返しているのだそうだ。


「ここは大丈夫よ。私、一年生の時から、心霊現象起こし捲ってるけど、皆わかってくれてるわ」


 わかってくれているとは思わなかったが、静ちゃんの心を癒してあげようと思い、そう言ってしまった。


「ホント?」


「ええ。ホントよ」


 静ちゃんはニコッとした。私はホッとして、


「さ、授業始まるから、戻ろうか」


「ええ」


 私達は手をつないで駆け出した。

 

 


 そして次の日。


 教室に入ると、私の隣の席に、見覚えのない美少女が座っていて、男共が取り巻いていた。


 みんなヘラヘラしている。私の上辺だけの彼の牧野君までいるわ!


 マッキーは私に気づき、慌てて自分の席に戻った。後でお説教ね。


「どいて!」


 私の席を占領していた力丸卓司君をどけた。


「貴女、だ……」


 そこまで言いかけて、その美少女が静ちゃんだと気づいた。


「おはよう、まどかちゃん」


 静ちゃんは微笑んで言った。メガネっ子がメガネを外すと最強というオチだった。


 うわあ。これはまどかピンチかも……。


 初めて負けたと感じてしまった。


 顔も、霊感も。


 静ちゃんのオーラ、あの蘭子お姉さんに迫ってる……。


 今のうちに潰しておこうとは思わないけど。


 やっぱり、最終回なのかしら?


 でもそうではなかった。


「残念な事に、笹木さんは今日で転校する」


 先生から衝撃の展開を告げられた。


「えーっ!?」


 男子達から漏れる驚きの声。ホッとする女子もいる。


『まどかちゃん』


 静ちゃんの声だ。テレパシーもできるの?


『ありがとう、まどかちゃん。私、おじいちゃんのところに戻るの』


『そう。もう平気?』


『うん。まどかちゃんのおかげで、前を向いて歩く勇気が出たわ。ホントにありがとう』


 静ちゃんは私を見て微笑んだ。それをバカな男共は自分に笑ってくれたと思い、ヘラヘラしていた。


 本当は私、静ちゃんにいて欲しかった。


 いくらクラスに馴染んでいても、どうしたって浮く存在だから。


 え? 誰よ、「お前が浮いているのは霊感のせいじゃない」って言ったのは!?


 フンだ! 


 取り敢えず、最終回はまぬがれたまどかだった。

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