天才スピヴェット


天才スピヴェット(2014)

t.d.ジャン=ピエール・ジュネ

c.ロード/ドラマ/アドベンチャー


カイル・キャトレット(T・S・スピヴェット)

ヘレナ・ボナム=カーター(母/クレア博士)

ニーアム・ウィルソン(姉/グレーシー)

カラム・キース・レニー(父/テカムセ・E・スピヴェット)

ジェイコブ・デイヴィーズ(弟/レイトン)


フランス・カナダ合同制作。

「アメリ」のスタッフ再集結。


めちゃくちゃ良かった。かなり好きになった。久しぶりに もう一度観たい! と思った!

以下、あらすじと個人の見解を交えたもの。若干ネタバレあり。


………マンタナの牧場で暮らす10歳の天才少年/T・S・スピヴェット。カウボーイの父と、昆虫博士の母親、女優を目指す姉と、自分とは正反対に活発な双子の弟と暮らしていたが、ある日、弟は銃の事故で亡くなってしまう。

その一年後、スピヴェットの元に、彼の発明がベアード賞を授賞したという報せが届く。



まず、スピヴェットは「父親は弟ばかりを愛している」と劣等感を抱いていた。母親も研究に没頭していて構ってもらえない。

ディスカバリー誌に論文を掲載されるほどの頭脳を持つ彼だが、学校のレポートでは頭の固い教師に理解されず、出る杭扱いされて打たれる。


天才的な頭脳の中に無限に広がる世界のサイズと、彼を取り巻く環境・日常のサイズが合っていない。そのスケールのギャップによって、今暮らしているのどかで広大な牧場には、自分を愛してくれる者はいないと感じるスピヴェット。そこで、彼はここに無いものを求めて、一度は断った授賞式の会場であるワシントンD・Cまで一人で旅をすることを決意する。

家族には内容を話さずにメモを残して。


女優志望の姉もまた、両親の暮らしのサイズと自分が求めるサイズが合わないことを嘆いている。あまりに異なる才能を持った家族が集まっているわけだから、互いに箱の中で趣味の違う服を着せたがるが、サイズが合わなくて着せられない。こればかりは仕方がない、と折り合っている感じがある。


旅の道中で、天才少年のスピヴェットは年相応の等身大の10歳の自分になる。

ずっと何かが悲しいまま。心細くて泣きそうで。大きなバッグにたくさん荷物を詰めたけど、本当に必要な物なんてなくて、持っていたのは壊れたら捨ててしまえるようなものばかりだった。


私はこの道中のシーンが一番好き。

卓越した頭脳を持っているのに 子どもであることで周囲から侮られ、誰からも理解されなかった彼が自力で道を切り開き、障害物をなぎ払い、チェイサーから逃れる姿が爽快! 声を出して笑ってしまうほど高揚した。

その行動は求めるものがあるからこそ。秀でていることに年齢は関係無い。


ヒッチハイクで車に乗せてくれたリッキーの「何を求めてるにしろ動じるな。腹を据えていけ」という台詞は自分の中にも残った。

道中で出会った3人の大人がこれまた良かった。スズメと松の話は目からウロコがポロリ。すごく丁寧な伏線になっている。


研究機関の責任者はスピヴェットがまだ10歳であることに仰天する。スピヴェットは侮られることを理解していたから、直前まで実年齢を明かさずにいたのだ。


そして、希望を抱いて訪れた地が理想郷などではないことに気づく。大人たちに食い物にされかけた天才少年を守ったのは両親。スピヴェットの抱きつき方がめちゃくちゃ良かった。

彼が兄弟を目の前で失った事実や親子の互いに対する想いが染み込んでくる。


スピヴェットの名前の由来。

牧場と誕生と発明のラスト。

素敵な映画だった。


余談、少年スピヴェットを演じた役者も天才。6ヶ国語を話せる3年連続総合格闘技の世界チャンピオン。天才が天才を演じている。然るべき……。


「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」のオスカーを演じた彼も天才少年だった。

スピヴェットをお勧めしていただいたとき、ものすごく〜と通底するものがある、という言葉を添えていただいたのですが、私にも通ずるものが感じられました。


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