第七章:鬼の棲む山の拒魔の村
第七十七話:それは違うよ、オリ姉
王都に着いたエリーとオリヴィアは、アーツを始めとした王族達、騎士団長ディエゴを始めとした騎士団上層部、そして魔法師団の四人組『ジャム』、そして宰相その他に迎えられた。
転移した場所は直接王城の会議室、既に全員が着席しており、とてもではないが少々の問題とは言えない重苦しい雰囲気が流れている。
「……なるほど。座りましょ、オリ姉」
そこに居る者達の心を一足先に読み取ったエリーは、まだなにも知らないオリヴィアを促して席へと座る。
その顔もまた真剣なもので、更には青ざめている。
オリヴィアが不安を抱えながら席へと座ると、王が口を開いた。
その声は重苦しく、しかし確実に伝えなければと硬い意志を噛み締めて。
「魔王討伐軍から、死者が出た。立て続けに三人だ」
「えっ……」
嫌な予感はしていたが、それはオリヴィアを絶望させるには充分すぎる出来事だった。
思わず両手で口を塞ぎながら瞳に涙を溜める。
少しの休暇が取れるからと、アルカナウィンドで、ブロンセンでのんびりと過ごしていた間に、仲間が命を落としている。
もしかしたら自分が行けば間に合ったかもしれないと言うのに。
知らずとはいえ、危機に瀕していた仲間を見捨てて遊んでいたのだ。
「それは違うよ、オリ姉」
更に後悔の言葉を頭の中で重ねようとした所で、すかさずエリーからのフォローが入る。
こんな時だけは、心を読まれることが本当にありがたい。そう思い少しばかり冷静さを取り戻すと、その顔を見る。
エリーの瞳にも、涙が溜まっている。
「王様、続けて」
優しくオリヴィアの手を取りながらエリーは言う。
そこではっと気付く。
後悔の念を感じているのは彼女も同じだ。
いや、重苦しい皆の心を直接読み取ってしまう彼女こそが今、自責の念に追い込まれそうになっているのだ。
例え誰にもそんな気は無いのだとしても、辛いという感情は彼女に伝染する。
それに気付いて、オリヴィアはエリーの手を力強く握り返した。
例えあまり意味はないのだとしても、それで自身の心は少しだけ楽になる。
それが更に少しだとしても、エリーを楽に出来る様にと。
その一連のやり取りを見届けてから、王は口を開く。
「死んだのは狛のは村の青年三名。死因は……共に自殺だ」
――。
その後の話を、オリヴィアはあまり覚えていない。
狛の村の住人と言えば、皆明るく開放的な人々だ。
皆がその強さに裏付けされた自信に満ち溢れ、いざ戦闘になれば抜群の連携を発揮する。
ドラゴンやデーモンロードすら一人の死者も出さずに倒してみせる、グレーズ王国の不干渉地帯にしてかつての最終兵器達。
そんな彼らは、この間出向いた時には全員がいつもと同じ様に笑顔で出迎えてくれたはず。
何より、そこは最愛の師匠であるレインの出身地だ。
レイン無しでも魔王位倒してやるさと、皆が口々に言っていた。その発言をした者の中に、その三人も含まれていた。しかも、その三人は若者の中でも特に優秀な戦闘力を誇っていた三名だ。
とても自殺などする様には思えない。
何より、そんな心境にあるのならこの間の訪問でエリーが誰よりも早く気付いて無理にでも介入しているはずだ。
「……信じられませんわ」
思わず呟く。
「でも、あの場の全員が幻術にでもかけられてるのでなかったら、紛れもなく本当」
エリーは力なくオリヴィアの手を握りながら、そう答える。
ここはオリヴィアの私室。
会議が終わった後、二人にして欲しいと頼んだオリヴィアが、そのままエリーを連れてきた状態だ。
「…………ディエゴにジャムの皆さん、そして二秒後が見えるお父様を同時に幻術にかける魔物……、ふふ、お姉様レベルでなければあり得ませんわね」
それが出来るとしたら、それこそ100mを軽く超えるドラゴンか、魔王位のものだ。
二、三人ならともかく全員となれば、幻術に特化したエレナにすら出来はしない。
「となると、本当ですのね……。一度狛の村に出向いて、原因を探しましょうエリーさん」
「……リシンさんが、原因は大体分かってるから自分達で解決するってさ。不可侵を直接申請しに来たんだって」
狛の村は、グレーズ王国の中でも特殊な場所だ。
完全に孤立した自治権と土地を保障することで、グレーズ領の一部として組み込まれること認めているだけ。
それを無理に侵そうとすればいつ牙を剥くか分からない。
そういう契約で、この国と狛の村は上手く関係を続けている。
上手い関係さえ続けていれば騎士団の訓練に付き合うことも護衛をすることもしてくれる。彼らはそんな存在だ。
「ごめんなさい、聞いていなかったみたいで……。それなら、待つしかありませんのね」
そうして再び、二人の間には沈黙が流れた。
「鬼神と聖女の名の下に、一人の死者も出さずに魔王を討伐しよう」というスローガンで、鬼神レインの鍛えた魔王討伐隊を前身にして立ち上げた魔王討伐軍。
その初めての死者が自殺だとは、やはりどれだけ考え尽くしても信じたくないものだった。
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