第六十話:最強の英雄と世界の救世主に見込まれたお前達
英雄候補達の動向が知れた所で、一番問題なのは魔王がいつどこに出現するのか、ということである。
従来魔王というものは、元となる魔物が存在し、その魔物をベースに取り憑く様に誕生する。その魔物の殆どは強力なもの。
しかし過去に現れたものの中にはゴブリンキングというデーモンよりも遥かに弱い魔物が魔王になった例も存在する。
そして弱い魔物がベースならば魔王も弱いかと言われればそんなことは全くない。
魔王は肉弾戦型や魔法型の違いこそあれど、その強さは全てが全く同じだと言われている。
その為魔王戦で最も恐ろしいことは、魔王に苦戦している最中に本国を強力な魔物に襲われること。
現在世界中で強力な魔物を討伐し続けている理由として、そのタイミングで都市を守ること以外にもそれが大きく挙げられる。
魔王戦は基本的に長期戦となる。
先ずはベースとなった魔物の種類を調べる為に先遣隊が送られ、幾度もの命懸けの戦闘を乗り越え、最終的に英雄になるべく者たちの手によって討伐が果たされる。
より犠牲を少なくする為には情報が重要だ。
今回はそれを徹底する為に、世界中から情報戦のエリートを集めている。
誕生する魔王が過去に出現した魔王のどれかと同種であるのならば、すぐさま対策を取れる様にと。
ロベルトは、これまでになく真剣な顔で口を開く。
「出現時期は未だ分からず、少なくとも半年以内ではあらず。魔王となる魔物は不明。恐らく新種の魔王とのこと」
恐らく新種。
その言葉に一瞬にして緊張が走る。
一先ず呪いを振りまく黒の魔王ではないことには安堵し、しかし対応策を考えることが出来ないことに対する不安は隠せない。
「新種か……。断片的にでも特徴は?」
英雄候補を代表してアリエルが問えば、ロベルトもそれに応える。
「出現時に黒いもやの様なものが見えると」
「それでも黒の魔王では無いと?」
「はい。ヴァンパイアではない様です」
黒いもや、と言われて思い浮かぶ魔物はヴァンパイアだ。
しかしそれでは無いと言われると、思い当たる魔物に該当がない。
ガス性の魔物連中には基本的に意思がなく漂っているだけ。
これまでの魔王のデータを見る限りでは、自ら行動を起こさない魔物が魔王になることはない。
「ふーむ、とは言え黒いもやに当てはまる魔物が思い付かないな。ガス性のやつらも考慮に入れておいてくれ」
「はい。既にそれも含めて調査を開始しています」
宰相ロベルトと女王アリエルのやりとりは、皆が口を挟むまでもなく完結している。だからこそただ聞き入っている。
戦闘員であるエリーにオリヴィア、そしてライラは、この二人の決めた命であれば安心して出撃出来るのはアリエルがこういう時には積極的に女王として、軍のトップとして上に立ってくれるからだ。
「更に最も重要な情報が判明しました。出現場所です」
「何処だ?」
「南の大陸中央部、森に囲まれた平野です」
「良くやった。皆作業は程々にしてちゃんと休めと言っておいてくれ」
いつもの様に必要な情報だけを聞き出してロベルトを下がらせると、再びアリエルは皆を向きなおる。
「さて、情報をまとめよう」
そうして彼女はいつもの様に、アリエルちゃんから女王エリーゼへと切り替える。
少し前までの弄りたくなる様な愛らしさは鳴りを潜め、真剣な表情は心を読めるエリーや、世界で最も強いオリヴィアにすら圧を感じさせる。
確実に英雄の血を引くと誰しもが理解出来るようなその姿勢で、言葉を続ける。
「先ず、魔王は生まれるのは南の大陸中央部、森に囲まれた平野。ここには強力な魔物が少なく偵察もそれなりにし易いはずだ。情報を集める為には遮蔽物も多く我々に有利な地形。魔物は少なく協力なものも少ない。
今回はそれが逆に魔王になる魔物のベースが分からない原因となってしまっている。すまないがどんなタイプの魔王であっても対応出来る様にしてくれ、としか言えないが……、頼めるな?」
「うん!」「勿論ですわ」「お任せをアリエル様」
アリエルの言葉にトップの勇者達は自信を漲らせて答える。
三人が三人とも、一人で魔王を蹂躙する鬼神と呼ばれる英雄レインに憧れ、聖女サニィの様にその男の隣に並びたいと考えて鍛錬を続けてきた。どんな相手であっても、負けるつもりなど聞くまでもなくあり得ない。
「良い返事だ。そして僥倖、かの英雄の子孫の居場所が分かったな。ナディアと合流というところに若干の不安は覚えるが、ナディアも英雄レインの為にと必ず魔王出現までには仕上げてくるはずだ。
サンダルについてはまだ分からんが、つい先日出たランキングは正しいと妾の力には出ておる。レイン兄、あ、おほん、英雄レインの友人として誇り高い人物だと聞いているから、力になってくれるだろう。
少なくとも後半年は猶予がある。まだまだ魔物達は襲撃をやめないだろうが、皆には言うことがある。
最強の英雄と世界の救世主に見込まれたお前達、絶対に生きて帰ってよ」
最後に少し乱れたものの、なんとか威厳は保ちつつ言い切ると、皆は既に微笑んでいた。
この後に起こる魔王戦での惨劇など誰一人予想出来ずに、四人は少しだけ進展した魔王戦への準備を進める。
今回の魔王はほんの少しだけの、しかし凡ゆる悪意の結晶であることなど、世界の意思を除いてはまだ誰一人知らない。
この最後の魔王戦ではどんな者でも死ぬのだということを、最強を継ぐ弟子達も、まだ知らない。
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