第四十六話:ヴィクトリアの再来、その全力を見せてやる
この世界にドラゴンを名前が付く魔物はいくつもいる。
代表的なドラゴンは単純に最もメジャーで強敵として知られているが、それ以外にもこの大陸固有のグランドドラゴンやリヴァイアサンの小型亜種がシードラゴンと呼ばれていたり、手足の無いドラゴンスネーク、ワイバーンの亜種のフライングドラゴン等がいる。
そしてそのどれもがドラゴンには及ばないものの凶悪な魔物だ。基本的には群れないのが特徴だ。
しかし今回出現が予測されている魔物がそれらの群れ。
それらは場合によっては複数集まればドラゴンにも勝ると言われている。
その為に、今回集められたのがこの面々だ。
「クーリア姉、全力で行くよ」
エリーは背負ったいくつもの武器の中から大剣を選択して構える。
「ああ、ヴィクトリアの再来、その全力を見せてやる」
随分と気持ちを持ち直したクーリアも、そう言って背中に背負った巨大な両手剣を抜く。
クーリアはこの武器によって多くの魔物を一撃で葬ってきた。その代表がドラゴンだ。いくら成長しなくなったとは言え、オリヴィアのカバーさえあれば未だにそんな実力を持っている。
何より、エリーの大剣の師とも呼べる存在が彼女だろう。
一人で戦うとなると厳しいだろうが、それでもレイン達の鍛錬によってそこらの騎士や魔法使いとは比べるまでもない程の力。
そもそも、もしもレインとサニィが存在しなければ世界最強だったはずなのが彼女だ。
覚悟を決めて構えるその姿には、獣の様な獰猛性が満ちていた。
「よし、勝負よ。いっぱい倒したほうが勝ち!」
「望むところだ。大剣だけならお前にもまだ負けられん」
ニィっと顔を向け合って、笑い合う。
遠くでは別行動をするオリヴィアもそれを見て微笑む。
今回戦うのは三人だけ。
この三人が全力を出せばマルスは足でまといか巻き添えを喰らうだけだ。
今まで何千何万と物理的な死を経験してきているマルスをなるべく休ませようという皆の配慮もあるが、どうしても戦いたいとのことで実際に一度戦闘に参加したところ一瞬でミンチになった経験がある。
それ以来、大規模な戦闘では戦いを控えている。
「毎度ながら心苦しいが、クーリア、頑張ってきてくれ」
「ああ、二人の時にまた戦わせてやる」
「気をつけて」
「ああ」
そんなイチャつきを二人の弟子は微笑ましく見守りながら、戦闘に赴いたのだった。
オリヴィアの担当は最前線で、もしもドラゴンが出た場合の対応をしつつ強敵を中心に戦う。
その後ろでエリーとクーリアが大剣で討伐数を競う形だ。
この面々は皆、対複数の戦闘が得意だ。
ルークもマナが持っている間は得意だが、敵が余りにも多いとマナが持たない為に抑えて戦わなければならない。以前の戦いでは霊峰マナスルで戦っていたからこそめちゃくちゃな戦いが出来たというわけだ。
ディエゴは攻撃力が足りない。騎士団と共に戦えばそれなりにいけるはずだが、そもそも現状でグレーズ王国を離れるわけには行かない。
アルカナウィンドのライラもそうだ。女王アリエル・エリーゼを守らなければならない為に個人で動くことが出来ない。そして彼女は基本的には一体一に特化している。複数を倒すのもわけはないが、その殲滅速度で言えばこの3人に劣る。
そしてウアカリのナディアとイリスも一先ずはウアカリを守っている。
あとは鬼神レインの友人という英雄候補がいるのだが、連絡が取れない。
そういうわけで、少ない手数で相手を倒せるクーリアと、どんな状況でも戦えるように鍛えられた鬼神の弟子二人に白羽の矢が立つわけだ。
さて、予言によれば今回守るべき都市は三つ。
それほど大きくない街が出現した魔物の進行ルートにあり、それがアルカナウィンドの王都に向かっていく。そんな予言だ。
そこで、最初に襲われるらしい都市で四人は落合、あとはエリーの直感に従って攻め込む作戦。
そうなると、一枚の壁の様に待ち構えるよりも二段階に待ち構えた方が抜けられる可能性も低くなるというわけだ。
そして念の為三番目の壁としてマルスが都市のすぐ側で待機して、都市の護衛団と守りを固めている。
そんな万全の状態でエリーの直感が告げる。
「ドラゴンはまだ分からないけど、断続的に出ると思う。いきなり体力使い果たさないでね」
「了解」
体力バカのオリヴィアは恐らく大丈夫だろうが、筋肉質で190cm程もの身長があるクーリアはそれほどスタミナが多いわけではない。
注意をしたところで、第一陣が現れた。一瞬の黒いもやと共に、魔物は現れる。
魔物は悪性のマナが物質化したもの。
その為少し前までは居なかった場所に現れることがあり、出現の瞬間を見た者は殆どいない。
今では『聖女の魔法書』によってその事実が認知されているが、以前はそのもやを何か何かと見に行って魔物に殺されてしまう者が多発していたらしい。
「……」「……」
オリヴィアが、暴れている。
現れるなんとかドラゴンを、片っ端から倒しまくっている。
強力なはずの大量の魔物を、片っ端から倒しまくっている。
「なあエリー、アタシ達いるのか?」
「まあ、まだまだ湧くから」
「そうか」
「もしも空気読まずに全部倒しちゃったらしばこうね」
「そうだな」
「うん」
無双王女を眺めながら、二人はしばし佇むことにした。
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