第204話:霊峰の連中は祭り好き

 霊峰マナスルに到着すると、エイミーとジャム達が出迎えてくれた。

 彼らの呪文研究は随分と進んでいる様で、彼らは随分と成長したと喜んでいる。

 ただ、呪文はマナの消費量が少なく絶大な効果を表すため、現在では研究が進む程に登頂が困難になるという矛盾を抱えている。周囲のマナを絶え間なく自身のマナタンクに蓄積させていくという方法で周囲のマナ濃度を薄くし、マナ酔いを防ぐという関係上、ここでの修行は呪文を使わない方が効率よくマナタンクを広げられる。

 そんなものでも、彼らは自分達が強くなるということが嬉しいらしい。


 「聖女様! 聖女様のもたらしてくれた呪文のおかげで私もきっと、もうルークやエレナには負けません!」


 重力魔法を開発してからルークに負け続けだったらしいエイミーはそんなことを言う。

 そんな彼女に対してルークは、「僕も負けませんよエイミー先生。また、新しい魔法が出来ましたからね」

 そんなことを言う。

 「でも、私はあなたの先生ですから、負けるわけがありません」

 負け惜しみの様に、エイミーも言葉を返す。

 「いいや、負けません。なんと言っても僕は、エイミー先生が敬愛するサニィ先生の本当の教え子なんですから」

 対してルークは挑発を重ねる。

 「くっ、聖女様、是非私も聖女様の犬に……」

 「えっ、普通に嫌ですけど」

 「ふっふっふ。先生の真の生徒は僕とエレナだけなんです」

 「くっ……」


 出会った時とは随分と印象が違うルークとエイミーの関係に、レインは苦笑いを隠せない。

 ともかく、エイミーはあれから少しの反省をしたのだろう。

 より生徒に歩み寄り、きっと、もう最初に出会った頃のルークの様に、子どもだからという理由で押さえ付けるようなことはしないだろう。

 そんな風に見える。


 「エレナ、なんだか子どもが一人増えたように見えるが、エイミーの様子はどうだ?」


 とはいえ、思わずそんなことを聞いてしまう。


 「エイミー先生は元々エリートの負けず嫌いですから、ルー君や私の才能に嫉妬してるだけにも思いますけど……」 

 「そうか……」


 理由はともかく、打ち解けているのなら良かろう。

 人間関係というものは複雑だ。レイン自身、ロベルトしか知りえぬ秘密を抱えている。

 サニィも何かの秘密を抱えている様に、見える。

 内容まではまるで分かりはしないが、自分がそれを伝えられない以上、サニィにだけ聞くわけにもいかない。


 「ま、しかし、魔法使いもお前達が居れば安泰な気がするな」


 早速みんなの目の前で魔法対決を始めたルークとエイミーを見て、レインはそんな感想を抱くのだった。

 魔法使いは勇者に劣る。それも彼らを見ていると、今日までのことの様に見える。

 少なくとも彼らは、かつてのディエゴにも負けない戦いを繰り広げている。


 「はは、世界は私達が必ず守りますね」


 エレナは少しはにかみながら、そう答えた。


 「サニィ、お前の残した功績は、確かにここに根付いている」


 その言葉を聞いている者は居なかった。

 サニィが二人に混ざって楽しそうに暴れ始めたのを見て、エレナもジャム達4人組も混ざり始めたからだ。

 それからもマナスルの麓村のどこからか集まってきた人達は、同じく彼らの戦いに混ざっていく。

 いつの間にか、かつての謎の魔術大会の様に、その村は賑わうのだった。


 ――。


 夕方、残った三人はそれを見物しながら呟く。


 「レイン様、お姉様は楽しそうですね」

 「私た、いや、俺達は忘れらてるんじゃないか?」

 「まあ、良いじゃないかマイケルよ。俺はサニィのああいう顔を見るために生きてるんだ」

 「ま、お前の為に巻き込まれることは不満だが、確かに彼女は楽しそうだな……」


 その祭りは、夜まで続いていた。

 先ずは修行者達が次々と脱落していく。そして研究員達、グレーズ魔法部隊員。

 最後まで残ったのは、ジャム達四人とエイミー、そしてルークとエレナだった。

 サニィだけが、一切の疲れを知らない顔でピンピンしている。


 「あの体力だけが、サニィの勇者らしい力だ」

 「ほんとに凄いですわね……」


 長い金髪を振り乱しながらいつの間にか一人対七人で戦うサニィを見て、オリヴィアもその底の見えない体力に素直に驚いている。


 「俺は見てるだけで疲れてしまった……」


 とはマイケ、ディエゴだ。

 ディエゴの地味な戦いとは違い、目の前では約9時間もド派手な魔法が飛び交っている。

 今は騎士団長ではなくただの友人としてのディエゴのつもりなのだろう。いつの間にか商才豊かな者たちが始めた屋台で買った焼き鳥を頬張りながら、酒を飲んでいる。

 夕方頃に今日は帰れないから自由時間だとレインが言った所、そんなわけはないだろうはははと言っていたのだが、流石にそれが本当だと1時間ほど前になって気づいたらしい。


 「くそっ、これなら俺もマルス様の様にウアカリで拉致されとけば良かったな」

 「あら、マイケルあなた性欲あったんですの?」

 「そりゃあんだけの美女がいりゃ色々と大変だっての」

 「わたくし達と修行してる時はそんなことなかったのに」

 「俺は熟女専門だ。鼻垂れの小娘共なんかどこが良いんだ」

 「……」


 そんな風に愚痴を垂れ始めたのに何故かイラっとしたレインが、ディエゴを気絶させて宿屋に運んだ後戻ってくると、そこに立っているのはサニィだけになっていた。

 見ていたオリヴィアが立ち上がり寄ってくる。


 「あ、レイン様、お姉様がまだ足りないみたいですのでわたくしがお相手してきますわ」

 「……まあ、良いだろう」


 なんだか少しばかり判断を間違えたかなと思いつつも、レインはその戦いに決着が付くまでのんびりと見守っていたのだった。

 成長したオリヴィアとサニィの戦いは、結局深夜にまで及んだ。

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