第193話:祭りの後の勇者達の
「レインさんレインさん、結局のところ、デーモンロードの平均的な強さってどの位なんですか?」
死の山で狛の村人がドラゴンを倒して数日、連日のお祭り騒ぎから抜け出して南の大陸へ向かった一向。
その道中で、サニィはそんなことを聞いた。
サニィはマナを感じ取ることが出来るものの、流石に万能ではない。
距離が離れれば自分が関連しているもの以外は感じづらくなるし、その能力に完全に目覚める以前のことまでは流石に分からない。
だからこそ、レインが最初に戦ったエメラルドグリーンのドラゴン、65mの個体がデーモンロードより少し強いと聞いて、それがどの程度なのかを知りたいと思った。
何より、狛の村人達の瞬殺劇を見て、デーモンロードってのは実はめちゃくちゃ強いのではないかと考えた。
「そうだな、基本的なデーモンロードは60mクラスのドラゴンと殆ど変わらないと思う。魔王化した個体は65mを上回ってたけどな」
サニィの聴きたいことを察したのだろう、レインはドラゴンを引き合いに出し、簡潔に説明する。
「この間生まれたのって特殊な個体なんですか?デーモンロード自体が特殊なんです?」
「あれは特殊個体っぽかったな」
魔物というものは、基本的に全てが同じ強さだ。たまに生まれる特殊な個体を除けば、個性と言うものがそもそも存在しない。
そんな中でドラゴンという魔物は、全てが特殊な個体。知性が高い故か、それぞれに何かを考えており、その体格や体長、凶暴性までもが様々。
デーモンロードも同じく特殊な個体なのだが、やはり基本的に個性というものはない。死の山でのみ5年に一度、必ず同じ時期に生まれるそれは、生まれた瞬間から破壊者であり、狛の村の敵だ。
「ふむふむ。ってことは狛の村人って60mのドラゴンなら倒せるんですか……?」
「実際はデーモンロードよりも楽に倒せるだろうな」
「え……」
それを聞いて反応したのは勇者候補達。確かにあの若い、45m程度の個体は瞬殺だった。
それでも、そんな若い個体が相手でも勇者達には勝つ為のビジョンがなかなか見えない。
レインやサニィが圧勝しているから簡単に見えるなどと、流石に歴戦の勇者達は思い上がりはしない。
「その理由を聞いても?」
とオリヴィア。
「簡単だ。ドラゴンはでかい。対してデーモンロードは6m程の身長だ。60人で襲いかかるには小さいだろう」
「ん、あ、確かに」
とエリー。
「それにデーモンロードは格闘戦だけで60mドラゴン並みだ。ドラゴンの爪の薙ぎ払いより、デーモンロードの拳の方が強い」
「以前私なら勝てるかもな、と言ってなかったか?45mのドラゴンすら私では厳しいと思うが」
と、今度はディエゴ。実際にデーモンロードの魔王を目の当たりにした彼は、魔王化以前にすら、勝てるビジョンは見えなかった。
「マイケ、ディエゴは相性が良い。デーモンロードは本当に格闘戦だけだからな。お前の絶対回避なら脚から切り崩して行けば勝機はある」
「勝機はある、か。それなら納得だな……」
「狛の村の人達って、なんであんなに連携が上手いんですか?」
思案し始めるディエゴを見て、今度はルークが質問を始める。
皆が皆、狛の村に対する疑問は尽きなかった。
「その理由は全く分からん。あいつらが戦ってるのなんか、俺が戦い始めてからはまともに見てなかったからな」
その戦い方はさながらグンタイアリ。そう頭に刻み込んだマルスも、そこに同じ疑問を抱いていた。あまりにも的確な連携だった。あれならば、60mのドラゴンも死人0とは言えないまでも、確実に倒せるだろう。しかしそれにしても、余りに強い。一国の軍隊を上回る連携と強さだと言える。
マルスもディエゴの様に、考える人となる。
「しかし、ウアカリの戦士とは随分と違ったな。アタシ達は相手を称え、味方を称え、そして自分を高める為に戦うが……」
「そうだね……。あの人達は結構怖かった」
クーリアとイリスは、余りの戦い方の違いに衝撃を受けていた。
狛の村人の戦いは、言ってみれば戦いですらなく、ただの作業の様だ。相手に誠意もなければ、自分達が強くなることにも興味はない。殺せるから殺す。ただ、それだけの様に見えた。
「普段は気さくで良い連中だったが、戦闘となるとまた違った一面を見せる民族、ということだろうか」
「まあ、その認識で間違いはないだろう。俺が頃から、あいつらはずっとああなんだ」
クーリアの判断に、同意するレイン。
それに納得を見せるクーリアとは対称に、エリーだけは、その師匠の言葉の続きを、感じ取っていた。
『……俺も……同じだが…………』
少しだけもやのかかったその思念に、サニィは師匠の戦い方を思い出す。
果たして同じなのだろうか、と考える。
「うーん、分かんない」
「どうした? エリー」
結論は出ない。
確かに師匠があそこ出身だということは、これ以上ない程に納得出来る。しかし、
「アリエルちゃんは、師匠のこと、どう思う?」
「残虐な英雄」
「……ぶー」
納得のいかないその答えに、頰を膨らませて抗議する。
「妾の大切な人は、レイン兄に殺されたからな。それは忘れん」
「む……」
アリエルの脳裏に、その時の光景が広がり、エリーは悲しさに溢れる。しかし、その中には、別の感情もある。
「でも、妾も子どもじゃないからな。その大切な人は、確かにレイン兄に救われたのだと、ずっと一緒に居たロベルトは言ってた。だから、悲しいけど恨んではない」
その詳細はもやの様に伝わらない。
しかし、確かにアリエルから感じるロベルトと言う人はとても信頼出来そうなお爺さんだ。
「うーん、でも、わたしは師匠になりたい」
「良いんじゃないか? レイン兄は紛れもなく英雄だ。魔王二体を一人で倒すなんて、聞いたことない」
「そうじゃなくてね、一人を守る為に世界を守りたい」
それが師匠の1番格好良いところ。
それは流石に言わなかったが、アリエルはうんうんと頷いた。きっとこれは、分かってない、お姉さんぶりたい時の顔だ。
「まあ、子どものアリエルちゃんには難しいと思うけど」
「エリーの方が子どもだもん!」
そんな仲の良い子ども達の後ろの方では、ライラとナディアが相変わらず、殴り合っていた。
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