第160話:強い男とヤンデレのいる日常
「やはり、二人は呪いのことを打ち明けられず、ずっと一緒に居た。それだけの話だったか」
「トイレもお風呂も、ってなったら確かにそんな噂は出てしまうのかも」
それでも、呪いでの死後もそんな荒唐無稽な噂話は、二人が姉妹だと言う話よりも広く広まって誰の耳にも届いてしまっている。
今では、その呪いは恐怖を伴うと誰しもが知っているにも関わらず。
人格的なものすら歪めてしまう世間の風潮ってものに嫌気すら刺してくるが、今はマルスが世界を回って真実を記す書物を制作していると言う。
もちろん、レインとサニィの真実が最も新鮮で中心のものとなってしまうが、まあ、それは力持つ者の責務だと割り切ろう。
そんな話をして、二人は記念館を後にした。
外では相変わらずサニィが殺気を振りまくので大半は襲って来ないが、それでもどこから噂を聞きつけたのか、腕自慢は襲いかかってきてサニィに返り討ちにあうと言う状況が、晩まで続いた。
ここはダメだ。そう告げるサニィをなんとか宥め、二人はこの国の宿を取る。
男にとっては楽園。そんな噂話を聞くものの、今まで一人として男には出会わない。
「その理由はなんだ?」
レインが宿の受付嬢に尋ねると、受付嬢は頰を染めて熱のこもった視線を送りながら、こう答える。
もちろん瞬時にサニィが殺気を送るので、それも直ぐになくなってしまう。
面白い、と感じるレインは、少しばかり歪んでいるのだろう。
「男性はみんなここに居付くことはないのです。みんな遠慮せず朝晩場所を問わずですので。一応、お疲れの様子を見て休ませてあげて下さいという法律はあるのですがあまり効力はなく。最初はとても満足されていますがそのうち……」
「……」
「それでも、リピートの方も多いんですよ? ここで亡くなってしまう男性は皆男性専用の最上級の葬儀をさせて頂きますし、皆満足気な顔で御逝去なされます」
「……そうか」
「ええ。もちろんあなた様ならこの国の全てを手に入れられます」
「その時はこの国が滅ぶ時ですが、それでも良ければ」
「ひっ、じょ、じょうだ、冗談です」
そんな不毛そうなやり取りをすると、受付嬢は部屋の扉に『手出し禁止』と書かれた札を貼り付ける。
これで安心です。そう受付嬢は答えるが、それを信じて良いものかは分からない。
そうして、この国の滞在1日目は、無事に幕を下ろした。
付け加えておくなら、次の日の朝、部屋の外には受付嬢が全裸で涎を垂らして転がっていたが、まあ、無事だった。
さて、すぐにこの国を出ず、宿を取った理由は簡単だ。首長に会って、魔王討伐についてこの国へ協力を求める。
この国の女性の強さは今までいくつもの国を渡り歩いて来た中でも上位だ。現状最も戦力が整っているのはディエゴとオリヴィア、そして狛の村を有するグレーズ王国であることは間違いないのだが、それに次ぐ戦力を持つのはここだろう。
エリーゼの所も強いが、個々でディエゴに及ばない者が何人か。その下は、正直現時点では大したことがない。
それに対して、ここはそのもう少し下というレベルの者がごろごろ居る。
勿論能力が役に立たないので、実際に戦えばそこまでという事は無いのかもしれないが、戦力としては十分。その実績は、ヴィクトリアとフィリオナが物語っている。
サニィもそれには反対しなかった。
勿論、様々な想いが渦巻いているのだろう。
ビッチ共に頼りたくないだとか、魔王に少し位間引きされてしまえば、とか、レイン以外の男は関係ないし、とか。
まあ何はともあれ、結果的には、反対しなかった。
全裸のまま縛り上げた受付嬢を起こすと、首長の居場所を聞き出す。
本気で漏らしそうになったら解けるという器用な仕掛けが凝らされた魔法の蔦で縛りっぱなしにされた受付嬢は、レインの呆れ顔を受けて少しばかり嬉しそうにしていたので、そのまま放置する。鋼鉄以上の硬度を持つサニィ特性の蔦なので、自力だろうが他力だろうが解く事は不可能だ。
その分、宿代を多めに払っておいたのは、別にどうでも良いだろう。
その後も、二人には、何事もなく、無事に、首長の所まで到着した。
普通の民家だ。この湿地帯に生える黒い木を使ったログハウス。二階建ての大きめの、普通の民家。
唯一他の家と違う所は、『首長』と書かれた幅5m程の看板が、玄関扉の上に打ち付けられているだけ。
「この国は、おかしいですね」
「お前でもおかしいと思うか」
「は?」「何でもない」
きっと、武器に『ふらんすぱん』とか付けてる奴におかしいとは言われたくは無いだろう。
どちらもおかしい。
凶暴なサニィにそれを伝えることだけは我慢して、その扉をノックした。
暫くして出てきたのは、身長190cm程もある巨大な二十五歳ほどの美女だった。
一応、隠すべき場所は隠しているが、いつ零れ落ちるかは分からない。
そんな格好をしている。
「お前が首長か?」
「そうだが、とりあえず子どもを作りながら話そうか」
数秒後、そこには白目を剥いたまま吊された首長と、それに驚き絶句する、レインを諦めきれない民衆達の姿があったのは、もう、言うまでも無かった。
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