第131話:今はまだ、最弱の

 宝剣と言うものは、大抵が超希少な金属と強大な魔物の身体の一部で出来ている。

 極々一部には、そういう力を持った勇者の鍛治師が、超希少な金属に力を込めて鍛えることで魔法効果を発揮するものがあるが、それは宝剣と呼ばれるものの中でも本当に一部だけだ。

 勇者レインの持つ宝剣『月光』は、代々狛の村に伝わる宝剣。それがなんの魔物を使っているのかは分からないが、決して壊れない。決して劣化しない。ただそれだけの理由で宝剣として認定されている武器だ。

 宝剣と呼ばれる物はその全てが研究施設に委託して、その能力が宝剣たり得るかを鑑定してもらい、その認定を受けることになる。

 『月光』もかつてはそんなことがあったらしいが、それはまた昔の話。


 エリーの武器は、8つとも全てが準宝剣だ。宝剣の要素である希少素材と、特殊な効果を持っているものの、研究施設には提出していない。宝剣かもしれないし、そうではないかもしれない。そんな8つの武器達。

 その中で、特殊な効果がはっきりとしているものが二つあった。宝剣はその効果が現れる使い方をするまでどんな効果を持っているのかは分からない。

 オリヴィアの『ささみ3号』などは羽の様に軽く鋭いと、その効果が分かりやすいものの、『月光』の様に壊れないと言うだけは分かりづらい。


 そんな中で、エリーの『戦棍ボブ』は、非常に分かりやすい効果を持っていた。

 最初に振るってから一定時間内、振るう程に威力が向上する。シンプル故に強力な効果だった。尤も、その分重量も増していく為、ドラゴンを一撃で葬れる程の威力になる頃にはレインですら持つことが出来なくなる。

 そんなある意味で欠陥を持った武器だった。


 もう一つは『短剣ヘルメス』所謂ダガーと言われる刺突武器だが、これは突き刺した相手の感覚が遅くなる。刺された相手は周囲が素早く動いて見え、自身の身体も加速して動く様に感じてしまう。

 相手が実際に遅くなる訳でもなんでもないのだが、その感覚だけが遅くなると言う効果は、魔物にも大いに有効な様だ。多くの魔物はそれを一度刺してしまえばエリーの動きに反応すら出来ず、二度三度と刺され、更に反応を失って行く。


 残りの六つはまだ判明していないものの、『長剣レイン』は恐らく、速く振るう程に威力が増す、とかそんな感じの様だ。

 宝剣の中には、主人だと認めた相手にしか素性を表さない物もある。もしかしたら、まだエリーが未熟な為に能力を扱えないのかもしれない。それをレインがもしキッチリと使いこなしてしまえば、その武器にとって主人の水準はレインとなり、エリーは二度と真の力を発揮出来なくなる可能性すらある為、下手に能力研究を行うことは出来なかった。


 「ということで、エリー、次はこれらの武器の真の力を解放するんだ」

 「はいっ、師匠!」


 短剣と槍についての勉強を終えた後、レインはそんな準宝剣達について説明していた。

 サニィ達が出掛けてしまっている今の内に、エリーを出来る限り育ててしまいたい。せめてオリヴィアに一泡吹かせられる程度になれれば、後は勝手に二人とも成長して行くだろう。

せめて、その位には。

 残された時間では、流石に彼女を魔王に対抗出来るほど強くは出来まい。ならば、せめて未来に可能性を残す程度のことは、最低限でもしておきたい。

 今の世界の戦力では、恐らく魔王が出現してしまえば蹂躙されるのみ。オリヴィアですら、魔王の足元にようやく小指をかけるかどうか、と言ったところ。


 「エリー、オリヴィアのことをどう思う?」

 「変なひとだけど、強い。でも、多分いけると、思います」


 7歳になる手前の子どもとは思えない、冷静な判断だった。

 レインの見立てでも、エリーはあと3年以内にディエゴに近い程の力を手に入れる。成長は順調。体は母親に似て小さいものの、その怪力は当時のレイン並み。

 類稀なる戦闘センスと、冷静さを兼ね備えている。情熱もある。


 「よし、それじゃ今日はお前の基礎能力の向上を目指そうか。武器は要らない。今日は組手だ」

 「はいっ!」


 エリーはこの先も戦闘中、武器を放ったり手放すことがあるだろう。武器を持たない格闘技術を覚えておいて損はない。彼女の天性の戦闘センスは、恐らくそれだけならレインをも超える。

 今は母親アリスとも夜寝るときにしか一緒に居ない様だが、今は、彼女を育てなければならない。

 彼女が何やらやる気に満ち溢れている今の内に。

 せめてオリヴィアと並び立てる様に、せめて魔王に殺されない様に、せめて、アリスを守れる様に。

 レインはきっと、エリーを自分と重ねて見ていた。

 自分が守れなかった母親を、彼女は守れる様な勇者になることを、ただ、感情だけで望んでいた。


 レインは、オリヴィアよりもエリーを贔屓している。

 きっと、身の上を知っているサニィと心を読めるエリー以外の誰もが、そう思っていた。


 (師匠は、本当にオリ姉のことを信じている。わたしは、まだまだだ)


 最強の英雄の一番弟子が一番認めている相手はオリヴィアだと言うことは、あまり語られない事実だった。

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