第64話:王と彼らの初会合
結局恥ずかしさで泣き出してしまったサニィを見て、レインは殺気を漲らせ民衆を退かせた。
そのせいで聖女とそれに付き従う悪魔が王都に居ると言う噂が広がるのは、また別の話。
「さてレイン、お前には王宮に来てもらう。至急王との謁見とババ様の占いによって魔王出現の有無を調べてもらう必要がある。サニィ君はどちらでも良いがどうする?」
「あ、私も行って良いですか? 王妃様に挨拶もしたいですし」
現在の王は元々王族ではなく庶民の出身。
王になる者は伝統的に男に限られているが、王女が婿養子を取り新王は庶民からと言うことも有り得なくはない。運や実力さえあれば庶民から王族の仲間入り、どころか王になることも出来るグレーズ王国ドリームとも言える制度が採用されていた。
グレーズ王は騎士団時代のディエゴの友人。最強の座を共に競っていた良きライバルだった。
運命の分かれ道はたまたま現王が王女を魔物から守ったことに始まる。
王女の専属の護衛だったサニィの母親であるリーゼをも退ける魔物が現れた時、それを救ったのが現グレーズ王。
ディエゴはその時、更に強い魔物を倒していたのだが、そこは運の差が影響していた。
尤も、おかげで今も尚成長する最強の騎士が現役で居られるのだが。
「おう我が友ディエゴよ! よく来たな!」
謁見の間に居たのは如何にもゴツいおっさんだ。金髪の渋い長身のおっさん。その腕は今だ健在だろうと言うのがひと目で分かる。そのおっさんは豪快に声を上げている。
「全くグレーズ王、あなたはフランク過ぎます。こちらが狛の勇者レインと、リーゼさんの娘サニィです」
「お前は堅い堅い! 公の場に出る時以外はこんなもので良いだろう! さて、初めまして狛の勇者レイン君に、リーゼさんの娘サニィ君。俺がグレーズ王、ピーテルだ。よろしくな!」
「ああ、狛の村の勇者レインだ。知っていると思うが村の礼儀で対応させてもらう。よろしく頼む」
「もちろんだ。さて、君は本当にリーゼさんにそっくりだな。ちょっと待っててくれ」
王はレインと挨拶をすると、サニィの方を見てはそう言うとそのまま部屋を出ていく。
庶民出身なだけあって中々に自由な王の様だ。
自身は一言も発さずに席を立たれたサニィは唖然としてしまうが、ディエゴの方を見ればやれやれと言った表情をしているだけだ。
「あ、あの」そう言うサニィにも、「少し待っていなさい」そんな風に慣れた様子。
暫くすると、王は二人の女性を伴って謁見の間に入ってきた。
王の直ぐ後ろを歩く女性を、サニィは知っている。王妃、かつて母リーゼが仕えていた王女だった女性だ。となると、その後ろに付くのは王女だろう。両親の面影を深く残している。
王妃はその瞳にサニィを映すと、王よりも前に出て優しく微笑む。一児の母とは思えないほどに整った顔に、サニィは思わず見惚れてしまう。
「あなたがサニィさんですね。お母様にはお世話になりましたわ。王妃シルヴィアと申します。とても格好良い方でした。あなたは目元がそっくりですね。でも、お母様とは違ってとても可愛らしい」
「あ、あぁあぁの、リーゼの娘サニィとも、申します。王妃様のお話は母から何度も聞いていました。おおお、お会い出来て光栄です!」
そのまま頬を赤らめ深々と礼をするサニィにその場の空気は一気に打ち解けた。
サニィの印象はとても可愛い。それがこの部屋の中で一致していた。
その流れに乗って、王女も挨拶をする。
「わたくしが最後ですね。オリヴィアと申します。サニィさんのお母様のお話はよくお母様から聞いておりましたし、レイン様のお話はマイケルから聞いておりました。よろしくお願い申し上げますね」
年齢は14、5歳と言ったところだろうか。未成熟ながらとても整った顔をしている王女はその様に挨拶した。
サニィさんとレイン様? と言うかマイケル? 気になることはあるが、最も気になるのはその瞳がレインを熱く見つめていること。サニィはその光景に、何かしかの危機感を覚える。
いや、それは尋常ではない。
王女の視線は、完全に青年の瞳を捉えて離さない。
「さて、本題に入ろうか。魔王が出た」
((え、えええええええ!? スルーなの!?))
レインはそんな王女の視線等意にも解さず話を進める。
その容赦のない話の切り替えに、偶然にも王女とサニィの心の声が被ったことを、その3人以外はしっかりと気づいていた。
――。
「今期のデーモンロードが魔王に変化した。なんとか倒したが俺でも簡単には勝てん。今後も生まれるらしいから警戒しろ」
「それは私も証言します。この国では現在このレイン以外は対処出来ないでしょう。それほどまでに圧倒的な力を持っていました」
レインに次いで、ディエゴも魔王等の報告を続ける。
その際魔王が言っていたレインを狙っているらしいということ、再び生まれるということ、新たに分かったかもしれない魔物の発生メカニズム。次いでサニィによる魔法の現状で出来るだろう強化案。そしてレインと言う存在。
「なるほど。取り敢えずババ様に再び占ってもらおう。レイン、良く魔王を倒した。この世界に平和が訪れた暁には……」
王は今までよりもさらに真面目な顔になったかと思うと、やはり思った通りの言葉を告げた。
レインとサニィが呪いに罹っていることは言っていない。例え王だとは言え、極プライベートなことを言う必要はなかった。
「オリヴィアをやろう。お前が次代の王だ」
レインの答えは決まっている。
「もち――」
「まあ、答えは必要無い。先のことまで考えておいてくれたまえ」
王の勇者の力は2秒先を見ること。レインの答えが決まっている以上、それを封殺することは容易かった。
「さて、俺はババ様に急ぎ占いを始めてもらう。下がっても良いぞ。ご苦労だった」
そのまま何の返事も聞く前に、王は立ち去る。
そのあとに続く何を考えているのか分からない王妃と、露骨に嬉しそうな王女。
そこには取り残されたサニィだけが、暗い顔をしていた。
例えレインの答えなど分かっていても、例え病のことを隠していても、王の威光に逆らうことなど、育ちの良いサニィには出来なかった。
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