第26話:心の中を改める
「久しぶりに二人きりですね」
サニィはふと漏らす。
サウザンソーサリスの滞在はたったの3日だったが、とても喧しい日々を過ごしたものだった。
しかし二人きりの時は……とても騒がしかった。あれ?
全然変わっていないことに気がついたのは、ふと口をついて出てしまった言葉の意味を考えてからだった。
思えばレインに出会ってから、平穏な日等1日足りともなかったのだ。
レインがもう少し優しければ、自分は既に恋人の様に旅行をし始めていたのかもしれない。もしかしたら、そんな風に。
その様な妄想をいつの間にかしてしまっていたのだろう、サニィが自分の発言にしまったと思った時には、既にその口から言葉は紡がれていた。
「手でも繋ぎたいのか? しかしだな、外で行動を制限するのは危険だ。次の町に着くまで待ってくれ」
返ってきたのは、そんな言葉だった。
レインなら即座に今日抱いてやる、だとか言ってくるかと思ったのだが、そんな予想は全く外れていた。
なんとも普通の冒険者らしい言葉を吐くレインは、何か物足りない。しかも、こんな普通の平野で危険なんて、レインがいるというだけであり得ないのだ。
そんな言葉に、サニィはまんまと思ってしまう。
(あれ……? 少し寂しい?)
理由は分からない。
手を繋ぎたいなんて、至って紳士的な冗談の範疇だ。いつものレインより遥かに優しい言葉だ。どちらかと言えば、望んでいたことの様な……。
でも、何かとても違和感がある。
少し距離が離れてしまったような、そんな寂しさ。
今まで私のプライベートなど気にも止めずに言いたい放題、やりたい放題やってきた男が突然そんなことを言うなんて。
サニィの心の隙間はどんどん広がって行く。
当然ながら男の能力の前では丸見えの心の隙間だ。
勿論、動揺しているサニィはそれに気が付いていない。
「何やら寂しそうな顔をしているな。寂しいなら抱き締めてやるけど、どうする?」
「はえっ? へっ?……え? い、いやいやいや、だ抱き締めて欲しくなんかないですし。と言うより、わ私レインさんアレですし、レインさんなんかアレですしっ!」
サニィにとってレインはアレらしい。全く意味は分からないが、なんとも可愛らしく手をわたわたとさせ つつ混乱し始める彼女をレインは楽しむことにした。
青い花も、場所を選ばず咲き乱れている。しかし顔は対照的に首筋まで真っ赤に染まる。これは可愛い。またそのうちやってやろう。
そんなことを考えているのも、先ほどの二つのレインの発言が既に矛盾していることも、混乱しているサニィは気づかない。
何と言っても、突然アレなレインがいきなりアレなことを言ってきたものだからアレなのだ。
本当にレインさんはアレなんだから!
もう、私のアレを突然アレしないで欲しい! 本当にレインさんはアレなんだから!!
サニィは、自身すら全く理解していないそんな感情をアレさせながらわたわたとし続ける。
5分ほど手と花をばたばたとさせたサニィが少し冷静になると、ふとある思いが浮かんでくる。それは今まではなんとなく悔しくて否定してきたものだった。
(でも、実際のところレインさんってアレなんだよな……。アレさえアレなら、でも、今のが私の望んでるアレなのかな……)
それは全く纏まってはいなかったが、何しろ今まで男とまともに接してきていなかった生娘のサニィだ。こんなものが限界なのだろう。
しかし逆に、そんな混乱した自分を見つめて、サニィは一つの疑問が浮かんできた。
「レインさんってアレなんですか?」
「そうだな。アレだ」
「え、やっぱり女誑し……」
サニィはまだ混乱が残っているらしい。何を言っているのか分からない。
「いや、お前がさっきレインさんなんかアレって言ってたからそう答えただけだ。アレってなんだ」
「え、ああ、レインさんって、女慣れしてるなって思って」
「なんだ。そんなことか」
「え……」
レインがそんなことと言うのを聞いて、サニィはショックを受ける。
それがなんでなのか、アレなサニィはまだ分かってはいない。
そして、その次の言葉を聞いて、何故か安心してしまったことも、サニィには何故だか分からなかった。
「俺はお前の全てを見てしまったからな。それはもう衝撃的だった。生まれて初めて全裸の女を抱えて走ったんだ。しかも好み過ぎる。お前が再生した後なんか大変だったぞ」
何が大変なのかはサニィは全く分からない。しかし「生まれて初めて全裸の女を抱えた」ここの部分が何故か分からないが、サニィにはとても大切なことに思えた。
「ともかく全てを見たからには、お前が意識を取り戻すまでに色々処理をしたわけだ。そしてお前以上に好みの女は存在しないだろう。だから普通に対応出来ている。以上だ」
レインは『狛の村』出身の化け物。戦闘が常の彼らは、野生動物と似ている。
一瞬で処理をすることができる。
そしてレインは抜群の反射神経と空間把握能力を持っているのだ。
勿論目を閉じたまま血だらけの身体を隅々まで洗ったり、服を着せることなど容易い。
それをやるかは別として、だ。
しかし、それだけでは足りない。サニィはレインにとって好みの真ん中だ。
なので、眠るサニィを見つめ続けた。起きた時に決して動揺しないように。
そのおかげで、サニィに対する対応は完璧なものとなっていたのだ。
「何かよく分かりませんけど、私の裸をわざとじっくり見たわけじゃないなら許します。と言うより本当は命を助けてくれたのに許すも何もないんですけど。だって、大変だったって例えば、頑張って服、見ない様に着せてくれたんですよね?」
何も分かっていないサニィはその様に理解した。全く的外れにも程があるが、サニィがその様に理解したなら都合が良い。
レインは「そうだ」とキリッと言うと、サニィは素直に「今更ですけどありがとうございます」と微笑んだ。
勿論のことその満面の微笑みにレインの心は痛むが、敢えて今真実を言う必要はない。いつか言おう。そう 決めて、その場は乗り切った。
「よし、では今晩抱こう」
訂正、全く乗り切れていなかった。
しかしそのレインの発言にサニィは「もう、馬鹿なこと言ってないで進みますよ」と冷静に対応する。彼女は親のおかげでまだ裸になる所までしか理解していない。
こんな良い話をした後に本当に裸を要求するわけなどないだろうと、何やら勝手に信用してしまっている危うさが見えているが、レインはその純粋さに救われた形となった。
このままで十分だ。
レインはそんなことを思いつつ、少しばかり自分の中の発見に気づいてしまったサニィと共に、ジャングルの入口へと辿りついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます