第2話
が、そいつは一瞬でおれの目の前から消え去った。
――なにっ?
首が痛くなるほど激しく周りを見渡したが、男は何処にも見当たらなかった。
「ここですよ、ここ」
上から声がした。
見上げるとやつは、天井に背中をつけるような体勢で浮いていた。
そして俺と目が合うと、また消えた。
――ええっ?
短い間の後、そいつは俺のすぐ横に現れた。
「どうですか。人間にこんなことは出来ないでしょう。たとえ一流のマジシャンだとしても。私は不幸が人間の形をしたものです。私の身体は人間とは比べ物にならないほど、別次元のものなのです。……たとえば」
男は自分の頭を両手で掴むと、上に持ち上げた。
どう見ても頭と胴体が離れている。
そして持っていた頭を、テーブルの上に置いた。
「こんなことも出来ます」
テーブルの生首がそう言った。
そして一瞬で消えると、胴体の上に戻っていた。
「……」
「おわかりいただけましたか?」
「「……」
「反論しないと言うことは、納得してもらえたものと認識しますが」
「ちょっ」
「何か反論がありますか?」
「いやそうではなくて、その不幸が……なんで俺のところに来たんだ?」
「決まっているじゃないですか。あなたを不幸にするためですよ」
「えっ?」
「私は「不幸」です。人間を不幸にするためのだけの存在です。ですから私が取り付いた人は、みな例外なく不幸になります。それもとびきりの不幸にですね。どんな人間でも生きてゆくことがとことん嫌になるくらいの、究極の不幸にです」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
「一応話は聞きますけど、あなたが不幸になることは避けられませんよ。もう確定事項になっています」
見た目は極め付けに貧相なのに、そいつの話し方からはなんだか威厳と言うものが、だんだんと感じられるようになってきた。
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