滅亡5分前の世界に召喚されたんだってさ! 誰が? 私が!!

外川うに

第1話 哀れな異世界召喚者

「いやーほんとツイてないよねー。滅亡寸前の世界に召喚されちゃうなんてそうそうないよー? キミ運悪すぎでしょーっ。ほんとケッサクだよね!」


 気がついたときには真っ白な空間にいて、三十代くらいのヒゲを生やしたおじさんから親しげに肩を組まれていて、可笑しくてたまらないとでもいうようにバシバシと背中を叩かれていた。


 え? なにこれどうなってんの??

 このおじさんだれ? てかここどこ!?


 えっと、たしか明日はやっともらえた一ヶ月ぶりの休日で、今日は飲むぞー! とハメを外して晩酌して……それからどうしたっけ?


 ダメだ、思い出せな――て、痛っ! 痛いよ!!

 さっきからずっと人の背中をバシバシバシバシ、なんなのこのおじさんは!?


「……すいませんちょっと、背中痛いんですけど」


 おずおずと上げた抗議の声に、おじさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべたあとで、


「いやーゴメンゴメン。こんなに笑ったの五百年ぶりくらいでさー。神を笑わせるなんて、カナンちゃんはなかなかのもんだね!」


 そう言ってニカリと笑うと、私に向けてビシッと親指を立ててみせた。




 ◆◇◆◇◆◇◆




 おじさん改め神様からの説明によると、信じられないことに私――白崎風南しらさきかなんは異世界へと召喚されてしまったらしい。


 そしてここは世界同士を繋ぐ中間地点のようなところで、本来ならただ通過するだけの場所に過ぎないのだが「あまりにも哀れな召喚のされ方をした人間がどんな顔をしてるのか見たかった」という理由で、神様が私をここで途中下車させたのだそうだ。


「えっとあの、異世界召喚されたっていうのは分かったんですけど、その『哀れな召喚のされ方』っていうのは?」


 なんか良い予感は全然しないけど、気になって仕方がないので尋ねてみる。


「あのね、キミが呼び出された世界なんだけどさ? 異世界人を召喚するくらいだからピンチな状況なんだけど、ぶっちゃけるともう手遅れっていうか、あと五分で滅亡しちゃうんだよね」


「はぁああああああああっ!?」


「向こうの世界の魔王が勇者によって討伐されたんだけどさ、その魔王が死に際に『超巨大な隕石』というか、君の世界とも向こうの世界ともまた違う『別の世界そのもの』を召喚して、自分の世界に落下させる魔法を放ったんだ」


「いやいやいやいや、そんなの私にどうしろと!?」


「うん、どうしようもないよね♪ なんかさーもう絶対無理だって分かってんのに、一縷いちるの望みってやつ? ヤケッパチみたいなノリで、召喚の儀式を行っちゃったみたいなんだー」


「なんだそれ! 迷惑過ぎる!!」


「でさー、どうするー? 向こうの世界行くー? 召喚魔術は成立しちゃってるから、元の世界に返してあげることは出来ないんだー」


「そんな『今日のランチどうするー? パスタにするー?』みたいな軽いノリで聞かないで下さい! 私、元の世界に帰りたいです! お願いします、神様の力でどうにか出来ないですか!?」


「いやーごめんね? 神様にもルールがあってさ、召喚自体に介入することは出来ないんだよねー」


 そ、そんなー無慈悲すぎる。

 五分後に死ぬのが分かってる世界に行かなきゃならないなんて、いくらなんでもあんまりじゃないかー!


「ただねーボクも久々に笑わせてもらったからさ、少しはサービスしてあげるっ」


「え!? それじゃなんとか元の世界に――」


「ほんとは転生特典ってここを通過したときにランダムで付与されるものなんだけど、特別にポイント制にして選ばせてあげよう! もちろんポイントも多めにあげる! あとはそうだなー、勇者級の召喚者でさえ三つしかないスキルスロットを、七つまで増やしてあげちゃうぞっ」


「いやだから、私は滅亡する世界になんて行きたくないんですけどー!?」




 ◆◇◆◇◆◇◆




 むぬぬぬぬ……。


 神様から受け取ったアイテムカタログを読み込みながら、私は必死に頭を巡らせる。


 聖剣、魔剣、神槍。妖精王の盾やらエリクサーやら復活の玉やら……。


 全部すごそうな、それこそチート級のアイテムなんだろうけど、私がこれらを使って生き残れるかってなると、どうなんだろう。


「ここに載ってる武器で、その『落ちてくる世界』を破壊しちゃったり出来ます?」


「無理だろうねー。もし破壊出来たとしても、破片とか降ってくるだろうし」


 まあ、そうだよね……。

 となると防御するとか受け流すなんてことも、無謀な気がするなぁ。


 私はアイテムカタログを一旦置いて、今度はスキルカタログに手を付ける。


 ふむむむむ。


 火魔法、召喚魔法、治癒魔法、身体強化に剣術に隠密。異世界召喚の定番、鑑定なんてものも見つけた。


 ちなみに鑑定はお値段1000ポイント、私が使える全ポイントと同額だった。

 聖剣や神槍ですら300ポイント前後だったことを考えると、ずいぶんとお高い。


 神様いわく、最近の需要の高まりを受けて激レアスキル認定された影響らしい。

 なんかね、そういうシステムなんだって。


「そうそう、スキルには一般スキルとユニークスキルがあるから気をつけてね。一般スキルは洗練されたスキルで、魔力効率がいいけど効果が一定なの。ユニークスキルは魔力効率が悪くて、大量に魔力を消費するかわりに注げは注ぐほど効力が増すタイプ」


 神様からの言葉を受けてカタログをパラパラめくってみると――あった、スキルカタログの後半にユニークスキルの欄を発見。


 ん? 火魔法や治癒魔法なんかの、一般スキルと同じ名前のユニークスキルもあるな。

 威力は一般スキル版より高いけど、魔力効率がすこぶる悪いバージョンてことなのかな。


 さらに読み進めてみたらアイテムボックスを見つけた。一般スキルの欄にはなかったはずだから、これはユニーク専用のスキルってことだよね。

 お値段は50ポイント。なんでだろ、鑑定よりも全然安いぞ?


 需要ないのかな? これはお買い得なスキルなのではなかろうか。


「神様すいません、ユニークスキルって魔力効率悪いって言ってましたけど、例えばこのアイテムボックスだったら一日に何回くらい使えますか?」


 私からの問いかけに、神様は笑顔で答える。


「ゼロだね!」


「……へ?」


 ゼロ? 全く使えないってこと??


「ユニークスキルはほんとに効率が悪いスキルだからさ、発動するだけでとんでもない量の魔力が必要になるんだよ。転移者の能力は現地の人間と比べたらかなり高めなんだけど、それでも発動させることすら難しいだろうねー。無理やり使おうとしたら、死んじゃうかも」


「……それって、なんのためにあるスキルなんですか」


「さあねぇロマンとか? 一応勇者クラスまで魔力が伸びれば、一回くらいなら使えるようにはなるけどねー!」


「そんなの、大半の人には意味ないじゃないですかっ」


「向こうの世界じゃ鑑定は一般的じゃないからねー、もしユニークスキルを持ってたとしても、一生気づかないんじゃないかな」


 要するに、ただの死にスキルってことじゃん!




 ◆◇◆◇◆◇◆




 それから数時間。

 アイテムカタログとスキルカタログを隅から隅まで目を通し、悩みに悩んだ結果……。


 うーん、無理!!


 どれだけ考えても、無事に生き残れるビジョンが浮かばない。

 自分一人だけならやり過ごす手段もありそうだけど、落下した後の死に体な世界で一人だけ生き残っても、どうせ先は長くないだろうし。


 ということで。

 今の私には絶望しかない。


「……行きたくない」


「うーん、だったらしばらくここにいる? ここでは時間が進まないからさ、なんだったら飽きるまで居てもいいよー?」


「ほ、ほんとですか!?」


「んーボクはかまわないよー? あ、だったらついでに遊び相手になってよ! ちょうどやりたい対戦ゲームがあったんだよねー♪」




 ◆◇◆◇◆◇◆




 レースゲームで対戦すること数時間。いやもしかしたら、数十時間くらいは経ってるのかも。


 神様はものすごく上手なくせに一切手加減してくれないという鬼畜っぷりで、私は全戦全敗。


 はっきり言って楽しくない。

 でもいいんだ、死ぬよりは全然マシだもんね。


「いやーでもカナンちゃんさ、意外とあっさり受け入れたよねー。もっとゴネたり泣いたりするかと思ってたよー」


「……いや、受け入れたわけじゃないんですけどね。それでもここに居ればとりあえず死なないわけですし。それに、どうせあっちの世界にそのまま居たとしても、あんまりいいことなかった気がするんですよねー」


「いいことかー、例えば結婚とか?」


「へっ、結婚なんて夢のまた夢でしたねー。職場も出会いなんて全然ないおじちゃんばっかりのところだったし。間違いなく一生独り身だったと思いますよ。というか最近は日々生きることに精一杯で、恋愛やら結婚なんて完全に意識の外に追いやられてましたねー」


「そっかーなるほどー。まあ、カナンちゃんは召喚されなかったら普通に結婚出来てたはずなんだけどねー」


「そうなんですよー。あ、赤甲羅はやめて――て、今なんて?」


「いやね、カナンちゃんはもし召喚されなかったらさ、結婚どころか一男二女の子宝にも恵まれて、幸せな家庭を築いた末に子供、孫、ひ孫の三世代に看取られて、幸福に包まれながら人生を終えることが出来たはずなのにねーって」


「…………は?」


 あまりにも衝撃的な神様からの言葉に、私は頭が真っ白になった。

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