23 六人そろっても敗北

「さてそれじゃあ……まずは擬似龍体のサイズだけど」

「バランスを考えると良いところ30メートル位よね」


 だよな、とカルロスとクレアは顔を見合わせて頷く。その辺りが限界サイズと言えよう。魔導機士の機構を参考にするのならばそのラインはある意味で絶対の物と言えた。だがその数字を聞いたイングヴァルドはフードの下で顔を青ざめさせる。

 

「さ、30メートル……? ……王冠に覆われし世界の大きさよ……」

「どうしましょう、何を言ってるかは分からないけれど龍皇様物凄くショック受けてる顔しているのだけれども」

「くそ……龍の姿でいる時は威厳あったからあれだけど今の格好だと小動物みたいでやりにくい……!」


 二人でひそひそとそんな会話をする。だが確かに、使うのはイングヴァルド自身である。彼女が最も使いやすい形状にすることが最優先だろう。そう考えたカルロスは意を決して問いかける。

 

「龍皇様、何メートルくらいが希望で?」

「にひゃ……100メートル」


 クレアと二人、再度視線を交わす。

 

「今200メートルって言いかけたわね」

「前のサイズが全長100メートルくらいだから……単にデカいのが好きなだけなんじゃ」


 一気に希望サイズを半分にしたのは遠慮か、現実との妥協か。だがそれでも厳しい。

 

「100メートルサイズにすると……フレーム強度が厳しいな」


 全身の密度が等しい物質だったと仮定して、二倍のサイズになった場合縦×横×高さで8倍の重量になる。今回の場合は約3倍なので27倍だ。現存する魔導機士で最も強固なフレームを持つデュコトムスのフレーム素材でもその荷重には耐えられない。

 

「アダマンタイトを使えば強度的には大丈夫だけど……」

「フレームの重量だけで魔導機士数機分になるわね。後ハルスの推定埋蔵量の半分くらい使うわ」


 論外であった。間違いなくログニスの財政が破綻する。

 

「流石にこんなデカいのは無理だな……予算内に入らねえよ」

「そうね……100メートルに無理矢理しても動かせないでしょうし」

「100メートル……」


 イングヴァルドは食い下がる。案外子供っぽいな龍皇様、とカルロスは思ったが口にはしない。そのサイズに拘るのは単なる好みだけでは無いのだろう。その戦闘技能を活かす為には、かつての龍体と同サイズなのが望ましいのは間違いない。いきなり身体のサイズが変わってしまえば戦闘能力は低下する。確かにそれでは意味が無い。それに、30メートルサイズで本当に龍族クラスの戦闘力を詰め込めるかと聞かれれば……難しいと言わざるを得ない。バランス的な問題でそこに行き着いただけなのだ。

 

「まあまだ考え始めたばかりだ。最初から無理無理言ってたら始まらないしな」

「そうね。テトラやライラ達の意見も聞いて見れば名案が浮かぶかもしれないし」


 と言う事でその場は解散となった。イングヴァルドはメルエスの船へと戻っていく。そういえば、とカルロスは最初に見た時から気になっていた事を思い出した。

 

「あの船から感じる気配は何だ……?」


 イングヴァルドかアルに聞くべきなのだろうが、イングヴァルドは難解な言い回しで自分が理解できるとは思えなかった。アルは自分から言い出さない事を喋ってくれるとは思えなかった。一応ダメもとで挑戦してみるべきか。

 

 翌日、テトラ、ライラ、グラム、ハーレイを加えたバランガ島の頭脳を結集させて擬似龍体について知恵を絞ったが名案は出てこなかった。

 

「中々、そう中々に難しい議題ですな。アルニカ殿……」

「アストナードでも名案は浮かばないか……」


 正直、一番期待していたのだが、彼もそこまで万能ではないらしい。首を横に振る。

 

「期待に沿えず申し訳ないが、こうなってくると最早焦点となるのは材料だ。新しい素材を発見するか作り出すかという話になって来ると私には荷が重い」

「くれくれー何か作れないの? こう、ぱぱっと」


 ライラが机に突っ伏したまま唇を尖らせてそんな事を言う。完全にやる気を失っていた。彼女の主観的に言うとびびっと来ないのだろう。その隣ではグラムとテトラがお互いに役立たずと罵りあっている。仕事をしろとカルロスは突っ込みたい。

 

「そんなに簡単には出来ないわよ」

「やれば出来る。良い言葉だよね……」

「雑な無茶振りね……」


 そこで何やら言い合っていた二人が互いの会話の中で何かを閃いたらしい。

 

「「思閃いいつちゃいったたぞんカだルなロあス。龍族の骨を使えばいいんじゃだん!」」

「別々に喋ってくれ。前半何言ってるか全然分かんねえよ」


 とは言え、後半の主題は聞き取れた。龍族の骨――即ち龍体の骨格を使う。なるほど道理である。元々100メートルサイズの身体を支えていた訳だ。それを主体とするのは悪くない。カルロスと言う死霊術師が居るのならば機械部品との調和も難しくない。問題は。

 

「どこにあるんだ、それ」

「あ……」

「えっと……アルバトロスの偽龍とか……?」

「それをどうやって倒すかって話から今作る物の話をしてるんだろうが……」


 屍龍を倒すために屍龍の素材が必要ではどうやっても成し遂げられない。ちょこんと脇に座って会議の様子を見ていたイングヴァルドは何かを考えている様だった。完全に会議が煮詰まった辺りでカルロスがまた今度に持ち越そうと言った所で解散となった。

 

「さて、僕は連射式の銃の作成に戻るよ」

「あ、私もー」


 ハーレイと、ライラの連射式銃作成班が揃って席を立つ。

 

「一応ハルスの方に使えそうな素材が無いか問い合わせてみる」

「助かる。それからこの事は――」

「ハルスには内密に、だろう? 分かっているとも。こんな面白そうなことから仲間はずれにされるのは僕もごめんだからね!」


 そう言いながら笑い去っていく。テトラとグラムも何事か言い合いながら――聞き間違いで無ければどっちが先に新素材を作り出せるか競争、と言っていた――部屋を去る。

 

「私もこの後新型魔導炉の製造ラインの報告を聞かないといけないから戻るわね」

「そう言えば俺もデュコトムスの改善要望聞く時間だったな。じゃあ龍皇様。また今度続きを話し合いましょう」

「うむ……」


 心なしか少し元気を無くしたイングヴァルドが退室する。どうにかしてあげたいが、今の技術では難しいと言わざるを得ないのが辛いところだ。

 

「何かいいアイデアが浮かべばいいのだけれども……」

「難しいよなあ」


 そこから数日はカルロス達も別の案件で忙しく、龍体作成計画は棚上げとなっていた。そしてある日。偶々関係者全員が食堂に集まっていた時。

 

「……あれ、龍皇様じゃないかしら」

「ホントだ……珍しいっていうか、こんな人目のあるところに出てきていいのか」


 島内に居る人間の中でも飛び抜けて小柄なイングヴァルドは目立っている。フードを被って顔を隠しているのも原因だろう。周囲を見渡して、カルロスの顔を見つけると軽い足音と共に近寄ってくる。

 

「龍皇様? どうしましたか?」

「……誕生の時来たれり」


 突然の発言に、周囲が首を傾げた。

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