第六章 次世代機開発編
00 プロローグ
フッと意識が覚醒する。
言葉にすればそれだけの出来事にカルロスは途轍もない違和感を覚えた。一体何故、と疑念を感じた所で端と気付く。
意識が覚醒した。それは即ち意識を失っていたという事だ。睡眠すらも不要となったこの身体で何故、そう考えた。そこで更なる気付きが彼に齎される。
「どこだ、ここ」
知らず内に問いが口から漏れた。周囲を見渡せば遥か彼方まで白一面の世界。雪が積もっている訳でもない。どころかこの空間には例外を除いて何もない。大凡現実の光景とは思えない場所に、夢を疑う所であった。
にしては現実味がある。そもそも己を死霊術で蘇らせてから夢など無縁の存在だ。一体ここは何なのか。
仕方なしにカルロスは自分以外の例外に目を向ける。
それは、扉だった。
奇妙な、砂時計が付いた漆黒の扉。それが全部で十並んでいる。歩み寄って見てみると砂時計の中の砂は砂銀の様だった。細かな銀の粒がさらさらと滑り落ちている。これだけでちょっとしたお宝だなとカルロスは鼻を鳴らした。
それぞれの扉の砂の残量は違う。扉の三つは砂が落ち切っていた。それ以外に外観上の違いは見られない。
再度周囲を見渡す。変化が無い事を確認し、今度は徐に扉のノブを掴んだ。回す。鍵がかかっているのか。硬い手応えが返ってくる。
「ふむ……」
見た所鍵穴の類はない。あれば抉じ開けたのにとカルロスは残念がる。工具箱が無い現在、鍵穴が有っても不可能であっただろうが。
一通りの扉を開けようと試みて、全てに鍵がかかっている事を確認したカルロスは腕を組んで唸る。この扉のどこかから抜け出せればよいと思ったのだが上手く行かない。
そもそもこの扉だけがのっぺりと立っている状態で、扉を開ける事に意味があるのかは分からなかったが。
「何なんだよこれ」
その呟きに対する言葉は思わぬところから返ってきた。
『SUMIRATISUMONITISUNOTITIMINORANIKATONANIKANONANIKAKAINIKANONINISUMIRATIMOMONINININONIMOMONINISUNOTITIMINOTITIKAMONINIMINONITIKANOTININIMORASUMONITISUMORATISUMONITI』
「っ!」
背後から聞こえてきた奇妙な言語体系の声。その声にカルロスは聞き覚えがあった。
「イビルピース……いや、邪神、か」
振り向けばそこにいたのは人型の何かだった。黒い靄がかかったような姿は人型以上の情報をこちらに掴ませない。
『KAMIRANIMOMONINININONIMINIMIKARANISUMIMITIMITI。MIMIRANIKAKARANIKAMORANINITONIMIKANANIMITOTIMIMITIMITISUMONITIKANOTINIMINIKAKANANIMINIKANONINISUKARATISUTONATIMITOTINOTITIKANOTINI』
人の世を滅ぼそうとする存在。だがこうして相対するとカルロスにはそれほどの邪悪には思えなかった。
『KANISUNOTITIKANONANIMIKARATININORANINOTISUMONITIKANOTINIMINIKAKANANIMINIKANONINIKAMIRANIMIMIRATINIKARAMINIMIKARATIMITONATISUMONITISUKAITIKAMORANIMINOTITISUMONITIMIMORANI。SUKARATISUMONITISUNOTITIMIMIRANISUMIRATISUKARATIKAKAINIKANONINIKANOTINIMINIKAKANANIMINIKANONANISUMIRATISUMONITINIKARAKAMIRANIMINIKAMIRANIKATONANIMIMIRANINIMITINIKARA、KAKAINIKANONINIKAMIRANIMINOTITISUTONITIMITISUKAITIKAKARANIKAMORANIKANOTINININONIMITONATISUMORATISUMONITIKANONANIMINIKAMONINIMIMIRATIKAMONINIMITONATI』
相も変わらず、何を言っているのか分からない言葉を延々と垂れ流している。前回遭遇時にはそんな余裕も無かったのでカルロスは何もしなかったが、今回はこの謎の空間だ。試せることは試すべきだろうとカルロスは気合を入れる。
「お前は……いや、神っていうのは何なんだ」
『KANIKAMORANIMITONANIMIMONINI、KANIKAMORANIMITONANIMIMONINIKAMONINIKANONINIMINIMIMORATIMINISUMONITISUNOTITIMIMIRANINITONIKANIMITOTINOTITIKANOTINI。KAMIRANIMIMORANISUMONITIMINONANISUNONITISUKAITIMIMIRANISUTOTIMIMITINIKANAMINOTITIMIKARANI、KAMONINISUTISUMORATIMINIMIMIRANISUMONITIMINORANIMITONATIKANONINIMINIMINOTINIMITOTIMIMITIMITISUKAITISUMIMITIMITIKAMIMINIMIMIRATISUMIRATINITONANITONISUNONATISUTONATISUNORATIMIKARATISUMIRATISUNOTITIKANONININITONIMIMIRANIMITONATI』
「それに、神殿に有った十一の像。その中に、イビルピースと瓜二つの物が有ったのは何故だ」
『KANIMIMONINIMITINIKANINIMONIMITINI。KAMIMINIKANONANIMITONANIKANIKAMONINIKANOTINIKANOTINIMINOTINIKANONINIKANOTINIKATONINIMIKARANIKAMIRANIMITOTINOTITIKANOTINI。SUMIRATISUMONITINIKARAKAMIRANIMINISUMONITISUMORATISUMONITIKANOTINIMINOTINIMIMONINIMINIMIMIRANIMITONATININORAMIMIRANIMIKARANIKAMIRANIMIMIRATIKANONANIKAMONINIMINI』
「グランツは何でお前を封印することに拘っている」
『MIKARATINITONIMIMONINIMITIKATONANIMINONINIMITONANISUMORATISUMONITIKANONANIMINONANISUNOTITIMINOTITIKAMIRANINIMIRANINOTIMINIMITONATI。SUMIRATIMOMONINISUTONITISUMIRATISUKARATIKANONANIKAKAINIKANONINISUNONATIMOMONINIKAMIRANIMINISUKAITISUNOTITININONININOTIMIMORANINIKARAMITONATI。SUMIRATISUMONITINIKARAKAMIRANIMINIKAMIRANIKATONANIMININIMIRASUNOTITIMIKARANIMINIMIMIRANIMITONATISUMORATISUMONITISUKAITINIMORAMITOTINOTITIMIKARANININOTI、KAKAININITONASUNOTITIKAMIRANISUMONITIMIKANANISUTOTIMIMITIKATONININIMIRASUMONITIKATONANIMIMIRATINIMOMONINISUKAITIMINOTITIMIMIRATISUTONATIMITI』
「お前は――」
『無駄だよ』
カルロスの更なる問い掛けを止めたのは新たなる声。第三者の存在にカルロスは再度視線を巡らせる。今度もまた背後。漆黒の扉を背にして一人の少年が立っていた。ただ物でない事は分かる。何しろこの不思議空間に置いてもカルロスの足は地面、と言って良いのか分からないがそれらしき場所に付いている。対してこの少年は明らかに浮いているし、自身も発光している。その輝きは余りに弱弱しい物だが。
『もう彼には人の言葉を解する機能がついていない。いや、正しくは彼が自ら取り外してしまったというのが正しいかな』
「あんたは……」
『初めまして。カルロス・アルニカ』
その挨拶と同時に、ぴたりと後ろからの――邪神の声が止んだ。その反応を見て少年は何とも言い難い笑みを浮かべる。それは嘲笑っている様な、悲しんでいる様な。
『ああ、人の言葉は分からずとも。僕の言葉はまだ理解するだけの頭はあったか。完全に狂ってしまった方がまだ気が楽だっただろうに』
『SUTISUMONITINITONA、SUMIRATISUMONITISUTISUTONATIKAMIRANISUMORATISUMONITINIMORA! MIKANANIKATOTIMIMINIKAMORANIKATONINININOTIMIKARATIMITONATIKAMIRANI!』
『愚かなのはそっちだろう。気持ちは分かる。だがそれでも人を滅ぼすというのは完全なお門違いだ』
『SUTIKAMONINIMIKANANISUMIRATIMITINIMIRAMINISUKAITINIMORAMIMONINIMIKARANININOTIKAMONININIKANA! MIMIRANIKAKARANIKAMORANIKANONANIMINIKAMORANIKATONINIMIMONINIMINONANISUNOTITIMIMONINININOTISUKAITIKAKARANIMIKARANISUMONITININORAMITONATI!』
『人を救ったのが己の罪だなんて思っている君にはもう理解できる筈もないさ。悪いけど、今日は君に用事は無いんだ』
そう言いながら少年は腕を右に振るう。その動きに合わせるように、白銀の十の扉がどこからともなく現れて邪神を取り囲む。そうする事で邪神からの声は完全に遮断され、カルロスの元には届かなくなった。その扉の意匠は先ほどまで見ていた漆黒の扉に酷似していた。違いと言えば扉の色と、設置された砂時計だろう。この砂時計は不思議な事に砂が落ちるのではなく、昇って行っている。一つの砂時計を除いて砂は殆ど下に残っていない。そして更に別の一つは砂時計自体が砕かれて中身が完全に抜け落ちていた。深紅の――まるで血の様な色をした砂が妙に目に残る。
『これでやっと静かに話が出来る。と言ってもしばらくしたら抜け出してくるだろう。僕の力は彼に比べると貧弱だ。全力で抑えても長くは維持できないから手短に行こう』
肩を竦めながらそう言う少年は先ほどよりも輝きが弱まっている。どころか反対側が透けているようにさえ見えた。肩で息をしている様に見えるのは気のせいではないだろう。少年の言葉の全力と言うのは大げさでも何でもないのだろう。
邪神の言葉を理解し、限定的にとは言え行動に掣肘を入れる事の出来る存在。そんな存在にカルロスは一つしか心当たりが無かった。
「……神」
その小さな呟きに応じるように。少年は口元に笑みを浮かべるのだった。
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