209

 一喝するものの、食卓は険悪なムードに包まれる。


 バタンと玄関が閉まった音がし、花織が反抗して家を飛び出したことがわかった途端、お酒を飲んでいた父のピッチが上がり、お猪口がグラスに変わった。


「お父さん、深酒はよくないよ。花織くらいの年齢は自分が大人だと勘違いする年なんだから。校則や制服から解放され、自由になったと勘違いしてるの。私は大学進学と同時に一人暮らしを始めたから、お父さんやお母さんにそんな一面を見せなかっただけで、花織も同じなんだよ」


「柚葉は男遊びはしなかった」


 確かに真剣な恋だったけど、相手に裏切られた。私が恋をし深く傷付いたことを、両親は知らない。


「恋は熱病みたいなもの。反対すればするほど、花織はその人のところに行っちゃうよ。花織の彼氏と一度逢ってみたら?そうすれば花織も羽目を外せなくなるかも」


 ブスッとしたまま酒を飲み干す父。母は私の言葉に頷いた。


「そうね、柚葉の言う通りかもしれないわね。反対ばかりしていたら、本当に駆け落ちでもしかねないわ。父さん、花織の交際相手に一度逢ってみましょう」


「その必要はない」


「だったら、父さんが居ない時に逢うわ。父さんはそれでいいの?」


「だめだ、お前に任せておけない」


「それなら、今度食事に招待しましょう。その時は、柚葉も日向さんも付き合ってくれるわよね?」


「……えっ、私達も!?」


「花織の交際相手と逢うように勧めたのは柚葉よ。父さんが暴言吐かないように、ちゃんと付き合って」


 母の言葉に、父は「何が暴言だ」と、ぶつぶつ呟きながら、「熱燗空っぽだ。早くしろ」と、母にあたり散らす。


 日向はそんな両親を見ながら、優しく微笑む。


「俺でよければ、食事会に出席させていただきます」


 マジですか……。


 どこまでお人好しなの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る