205
美空に容赦なく斬り捨てられ、返す言葉もない。
「でも、柚葉が夢中になれる相手を見つけたってことは、それはそれでめでたいかもね。オンナ復活」
陽乃は笑いながら、言葉を続ける。
「柚葉はさ、いつも後ろ向きの恋をしてきたから。柚葉を前向きにさせた男って、よっぽど凄いのね」
「やだぁ、どんだけ凄いのよ」
美空はオムライスを食べながら、陽乃の背中をパンッと叩く。完全に卑猥な妄想している。
ここが社員食堂だということを完全に忘れている。
「あのさ、二人ともいい加減にして。ここは職場なの」
「そうでした、そうでした。美空、そう言えば権田さんが、どうしても美空に逢いたいみたいよ」
「ブッ……」
美空は思わず吹き出した。
「美空もいい加減、前向きになったらどう?恋が仕事の支障になるなんてナンセンスだよ。本気で恋したことがないから、そんなセリフが言えるの」
「権田さんのことは断ったでしょう」
「男勝りの美空に、こんなにアプローチしてくる男性は今までいなかったよ。一緒に食事するくらい別にいいんじゃない?」
「一度誘いに乗ったら、勘違いするでしょう」
「いいじゃない。美空、仕事が出来る女は、男も自由に操れないと。たまには体にも甘い栄養を与えないと、お肌も潤わないよ。恋は高級化粧品よりも勝るんだから」
「なるほど、だから陽乃は常に恋人いるんだ。男で高級化粧品の節約してるとは、知らなかったな」
皮肉混じりの美空の言葉に、陽乃は苦笑いしている。
心か満たされていると、気持ちにゆとりが出来るせいか、二人のこんな会話も笑って聞けるようになるから不思議だ。
「美空も恋人作りなよ。人を好きになるって、素敵なことだから」
私の言葉に、二人が目を見開いた。
「やだ、柚葉のセリフとは思えない。柚葉どうしたの?よほど高熱に魘されてるみたいね」
美空は仰天し、私を見つめた。
「乾季が終わり、雨季で潤い、猛暑が訪れたってわけだ」
陽乃は意地悪な笑みを浮かべ、一番奥の窓際の席で男性社員とランチしている日向に、チラッと視線を向けた。
「陽乃、もういいでしょう」
「そうだね。ハッピーエンドはつまらない。次は美空で楽しませてもらうわ」
「陽乃、私で楽しむってどういう意味よ」
「キャリアウーマン目指してるくそ真面目な美空を、どうやってこちら側に引き込むか、遣り甲斐あるでしょう」
「……っ、くそ真面目で悪かったわね。陽乃と価値観が違うだけだよ」
美空の価値観という言葉に、一抹の不安が過る。
日向と私の価値観。
日向と私の未来予想図は、明らかに異なっている……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます