柚葉side

190

 お墓参りを終え、車に乗り込む。


「今日はありがとうございました。でもどうして急に、俺と……」


 日向はエンジンをかけ、私に視線を向けた。


「どうしてかな。日向さんの言葉を、ふと思い出したから、それを確かめたくなったの」


「俺の言葉?」


「高校生だった日向さんが、私にこう言ったのよ。『あんたと俺の赤い糸、もう絡まってるかも』って」


「俺、雨宮さんに失礼なことばかり……」


「あの頃の日向さんは乱暴で怖かった。だから家庭教師を引き受けなくて良かったとさえ思ってた。日向さんが転勤してきた時も、正直拘わりたくないと思った」


「そうですよね。避けられていることはわかってました」


「拘わりたくないと思っているのに、日向さんは私の心にズカズカと入り込む。両親にまで話すなんて、本当に狡い」


「すみません」


「私、あのコンビニの店長と付き合っていました。男性が怖くてトラウマになってたんです。だから今まで交際した人とも、本気で付き合えなかった。あなたの言った赤い糸とか、運命とか、そんなもの信じられなくて。男性の前で素直になれなかった」


 日向がそっと私の手を握った。


「もう何も怯える必要はありません。誰も雨宮さんに危害を加えることは出来ない。そんなこと、この俺が許さないから」


「……日向さん」


 日向の言葉はとても力強く、長い間燻り続けた心の闇が一瞬にして晴れた気がした。


「……俺、本当は両親の店を継ぐつもりでした。だから大学に進学するつもりはなかった。でも両親は俺が店を継ぐことよりも、進学を望んでた。両親に反発していた俺は、家庭教師に当たり散らし乱暴なことばかりして、二度と家に来れないようにしていたんです」


「わざと……あんなことを?」


「本当に……すみません。雨宮さんを傷付けてしまったこと、どんなに詫びても許されないですよね」


「そうだね。あんな酷いことをして、許さないわ」


 日向は私から手を離した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る