【19】賢い獅子は外堀から埋める

柚葉side

176

 暫くして望月と留空が仲良く来店した。留空は特別着飾った風でもなく、眼鏡をかけ、ゆったりとした淡い紺色のワンピースを着ている。


「木崎、雨宮さん、本日は私達のために、ありがとうございます」


 望月と留空は、笑顔で私達に頭を下げた。


「留空、悪阻つわりは大丈夫?」


「うん。少し落ち着いてきた」


「そう。良かった。陽乃と美空も来てるよ。望月さんもこちらへどうぞ」


「ありがとう。木崎と雨宮さんは、また……」


『また、付き合い始めたのか?』と問いたげな望月を、木崎が笑顔で制する。


「望月、私と雨宮さんは友人だよ。その話は……」


「そうか、雨宮さん大変失礼しました。木崎はいつも『いい人』で終わってしまうんです。本当になんだけどね」


「望月、爽やかな顔して、言うことがキツいな」


「ごめん、ごめん」


 木崎と望月は笑いながら、肩を並べる。


 私と留空も顔を見合せ笑った。


 個室のドアを開けると、みんなが望月と留空を拍手で迎えた。


「おめでとう」の大合唱に、留空は恥ずかしそうに俯いた。


 おとなしい性格の留空。

 南原主宰のパーティーで、一日だけ変身し、誰もが目を見張る美しい女性へと変貌を遂げ、男性に取り囲まれた。


 まるで魔法を掛けられたシンデレラのように、あの日の留空は本当に綺麗だった。


 望月も初めは留空の美しさに魅了されたのだろう。けれど本来の留空の姿を目の当たりにしても、望月の気持ちは変わることはなかった。


「柚葉、そんなに羨ましそうな顔しないの。大きな魚を手放したのは、柚葉なんだからね」


「陽乃、そんなんじゃないってば。留空が幸せそうで、嬉しいだけ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る