171

 確かに、出戻りだ。

 一度は自立すると家を出た身。


 たまに帰るだけならいいけど、毎日一緒に暮らすとなると、正直気まずい部分もある。


 でも最終的に頼れるものは、両親しかいないのも現実だ。


 いざとなると有り難い。


「部屋で着替えてくるね」


 六畳の洋間、クローゼットの横には洋服や小物が入った段ボール箱。


 持って帰った家具や電化製品が雑然と置かれている。


 私服とマジックで書いた段ボール箱を開け、部屋着を取り出し着替える。


 ドアが開き、花織が顔を覗かせた。


「お姉ちゃんお帰り」


「ただいま。今日から宜しくね」


 花織が部屋に乱入し、ドアを閉めた。


「お姉ちゃんが帰ってくれて助かった。最近お父さんもお母さんも口煩くて、彼とお泊まりも出来ないんだから」


「お、お泊まり!?」


「シーッ、声が大きいよ。姉妹協定結ばない?私も協力するから、お姉ちゃんも協力してね」


「花織、姉妹協定って……。大学に入った早々、勉強もしないでそんなことしてるの?」


「そんなことって、恋人同士なら自然の成り行きでしょう。まさかお姉ちゃん未経験じゃないよね」


「ちが……」


『違うよ』といいそうになり、思わず口を結ぶ。


「やだ、何照れてるの?その歳で未経験だなんて言われたら、その方が引くし」


「あっそ。帰る早々、こんな話になるとは思わなかったよ」


 呆れてこれ以上、物も言えない。


「とにかく姉妹協定成立ということで。お母さんがご飯だって。張り切ってちらし寿司作ってるよ。早く来なさいって」


「はいはい」


 花織の嘘に付き合うつもりもないが、歳の離れた妹が、いつの間にかオトナになっていたことに、正直驚きを隠せない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る