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『母ちゃん!母ちゃん!』
店の外でパトカーのサイレンがした。客の誰かが警察に通報した。
奴らはサイレンの音に動揺し、床に唾を吐き捨て立ち去る。
『また取り立てに来るからな。これで終わると思うなよ』
『母ちゃん!母ちゃん!』
店内には壊れた椅子やテーブルが無残な姿で散乱し、床には踏みつけられた料理や割れた皿……。
血だらけの母親は……息も絶え絶えで……。
それでも日向の体の上にしがみつき、日向を守り続けている。
『この子だけ……は……たすけて……』
父親は母親の手を握り、名を叫び続けた。
日向の母親はその時の怪我がもとで亡くなり、父親は自己破産し酒に溺れ、母親のあとを追うように自殺した。
当時、日向はまだ十代だった。
◇◇
日向は唇を噛み締めた。
「世の中の全てを恨みました。大人なんて信じられない。信じられるのは金だけ。俺は父の死後、大阪に住む母方の親戚に引き取られました。折れそうな心を支えてくれたのは、あの時出逢った家庭教師の言葉でした」
「……日向さん」
ご両親の悲しい顛末を知り、涙が溢れた。
「勘違いしないで下さい。俺は同情して欲しくて、雨宮さんに全てを話したわけではありません」
涙を拭う私に、日向はハンカチを差し出す。
「俺、学生の頃、両親に反抗ばかりし、尖っていたから。家庭教師だった雨宮さんに、卑劣なことをした。ずっとあなたに謝りたかった。……そして、今の自分を見て欲しかった」
「日向さん……。私、何も知らなくて……」
「雨宮さんへの気持ちが、再会とともに徐々に変化したのは確かです。俺、雨宮さんのことが好きです。彼にストーカーだと言われたら、その通りだよな。雨宮さんの気持ちを無視し、非常識なことをしたんだから。今から彼に詫びてきます」
日向の言葉に、胸に熱いものが込み上げる。
「木崎さんのことは、もういいの。自分で話をします。私……彼に気持ちがないのに、軽はずみな行動をとるところでした」
「……雨宮さん」
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