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「日向さん……」


「雨宮さん寮に帰りましょう」


「……ぇっ?」


 日向は私の腕を掴んだまま、ホテルの出口に向かう。


「君、雨宮さんの手を離しなさい」


 後方で木崎の声がした。

 日向の足が止まった。


「私と雨宮さんは結婚前提でお付き合いをしています。これは部外者の関わる問題ではありません」


 木崎は怒鳴るわけではなく、淡々と語っている。

 日向はゆっくり振り向いた。


「俺は……」


「君は雨宮さんのストーカーなのか?彼女が迷惑しているだろう」


「木崎さん、日向さんは会社の同僚です。私……気分が悪くて目眩がして、それで日向さんが……」


 咄嗟に日向を庇い嘘をついた。木崎は視線を床に落とし、フッと笑った。


「それが雨宮さんの答えですね。雨宮さんが別の男性に想いを寄せていることは薄々気付いていました。

 失礼しました。部屋を取っているなんて嘘です。私にそんな勇気はありません。雨宮さんの気持ちを確かめたくて、つい卑怯な手を使ってしまいました」


「木崎さん……」


「私は雨宮さんとの結婚を真剣に考えています。今夜はこのまま帰ります。私達がこのまま別れてしまったとしても、望月と本平さんの婚約を祝う食事会の幹事は宜しくお願いします」


「……木崎さん。私……」


 一礼し立ち去る木崎の背中を見つめながら、自分の優柔不断な行動につくづく嫌気がさした。


 思わず、その怒りの矛先を日向に向け、日向の頬を叩く。


「私は……最低な女です。愛していない人と一夜をともにしてもいいと思った。そしたら……そこから愛が芽生えるかもしれないでしょう」


「雨宮さん……」


「私も最低だけど、あなたはもっと最低だわ。吉倉さんと付き合っているくせに、どうしてこんなことするの?どうして……」


 取り乱す私を……

 日向が抱き締めた。

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