陽side

14

 俺は電車のホームにいたお節介な女が、新しい家庭教師だと知り驚きを隠せない。家庭教師に無様な姿を見られ、どんな顔で挨拶しろというんだ。


 もともと俺は、進学する気はない。

 受験もしないのに、家庭教師なんて金の無駄だ。


 赤点取ったって、追試でなんとか乗り切れる。勉強出来なくても高校くらい自力で卒業してみせる。


 それなのに親父もお袋も、俺の進学に拘る。


 家庭の事情で高校を中退した親父は、この職を選ばざるを得なかった。


 学歴ではなく、腕と味で勝負出来る世界に身を投じたわけだが、商売に失敗し多額の借金を作り一度は店を手放した。


 幼い俺を抱え屋台から出直し、再び小さな店を構えた。


 この店は借店舗だ。開店のために新たな借金も作った。


 そのせいか、両親は俺を大学に進学させ、安定した職業につくようにと勧める。


 『蛙の子は蛙』亡くなった祖母がいつも言ってたセリフ。親父の血を引く俺が、突然秀才になるはずがないだろう。


 俺は子供の頃から、いつも眉間にシワを刻みピリピリしている親父と、金のことでガミガミと口論が絶えないお袋の背中を見て育った。


 何不自由なくゲームや遊びに興じる友達を見て、世の中は不公平だと、子供ながらに感じた。


 でも、貧しくても懸命に働く両親は、いつしか俺の誇りになった。おやつは贅沢なケーキやフルーツじゃなかったけど、俺は親父の焼き鳥が大好物だ。


 屋台から築いた常連客が店にリピートするようになり、今では行列が出来るまでに繁盛し、借金もあと僅かになった。

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