うちの親父伝説!
雲江斬太
第1話 あいつ、おぼえてやがんのな
うちの親父は若い頃大部屋俳優をやってた。大部屋俳優ってのは映画会社が抱えているエキストラみたいなもんで、当時はいろいろな映画に出てたらしい。ただ現存するものは僅少で、そのうちのひとつが「七人の侍」。
親父は「七人の侍」のお百姓役と野武士役をやったらしい。
「七人の侍」は映画で見ると夏から秋の話なんだけど、クライマックスは、聞いたこともある人も多いと思うけど、真冬に撮影している。降った雪をごまかすために水を撒いて、雨ってことにしたのは有名な話。
で、そこか、あるいは中盤かは詳しく聞かなかったんだけど、とにかく真冬に死体の役をやらされたらしい。
朝行って夕方まで、半分水につかって、ずっと死んでいる。それが仕事。親父は筋金入りの寒がりだし、なんといっても根性なし。
ある時ふっと思ったらしい。
「何人も死んでいるんだから、別におれ一人いなくてもいいんじゃないか?」と。
で、昼休みが終わっても、とぼけてもどらなかった。
すると、
黒澤明「おい! あそこの死体、どこいった?」
隠れていた親父。「すみませーん」とかいって戻ったらしい。で、後日妹に語った話では、
親父「あいつ(黒澤明。うちの親父はあいつ呼ばわりである)死体の位置、全部覚えてやがんのな」
また、有名な写真で、「七人の侍」にかかわった全てのスタッフ・キャストが集合した記念写真がある。あれに、うちの親父は写っていない。なんでも記念撮影の日、いかなかったらしい。
妹「なんで行かなかったの?」
親父「いっかねーよ、あんなの。だって金でないもん」
ま、この辺りは、いかにも親父らしい。
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