アルバイト

毒竹内君

 職場体験も三日目の夜、竹内君はローズから呼び出しを受けた。


 足を運んだのはオフィス街の外れに位置する、雑居ビルに囲まれた界隈。同所に店を構えた一軒の喫茶店だ。以前にも同じ相手から呼び出されて足を運んだ場所である。覚えのある軒先を確認して、彼は店内に足を踏み入れた。


 客の姿はほとんど見られない。


 奥まった場所に見知った相手を確認して、竹内君は足を進める。


「……フランシスカさん、ですよね?」


「あら、早かったわね」


 店内にローズの姿は見つけられなかった。


 代わりに股臭おばさんを発見したイケメンである。


「ローズちゃんから呼び出されたんですけど、もしかして……」


「期待していたところ悪いけれど、話があるのは私なのよねぇ」


「…………」


「座らないの?」


「……失礼します」


 促されるがまま、彼女の対面に腰を落ち着ける。


 すぐさまやって来た店員にホットコーヒーを注文して、竹内君はフランシスカに向き直った。まず目に入ったのはおっぱいだ。ピチピチのスーツの下、溢れんばかりの巨乳が彼の視線を出迎えた。


 しかし、それも束の間のこと。


「あの、俺に話ってなんでしょうか?」


 神妙な面持ちとなり、竹内君は問い掛ける。


 とてもではないが、冗談交じりで当たれるような雰囲気ではなかった。目の前の相手が、ただスタイルがいいだけの女性でないとは、彼も病院での一件を受けて理解していた。拳銃を片手に凄む姿は、今も鮮明な記憶として残っている。


「単刀直入に言うけれど、私の管理下に入ってもらえないかしら?」


「え、管理下っていうのは……」


「貴方の手にした毒、その不思議な能力は、本来であればこの世に出回ってはいけないものなの。これが世間に露呈することがないように務めて、場合によっては有効活用する。それが私の管理下に入るということ」


「…………」


「ちなみにローズちゃんも同じような立場にあるわね」


「えっ……」


 フランシスカの言葉を受けて、竹内君の目が見開かれた。


 今更ながら二人の関係を知ったイケメンである。


 同時に彼女の突出した身体能力にも納得だ。


「どうかしら? もしも断られたら、こっちも次の手を考えなければならないの。その場合はきっと、お互いに不幸なことになってしまうと思うわ。だからできることなら、この場で素直に頷いてもらえると嬉しいわね」


「…………」


「考える時間が必要かしら?」


 少しだけ悩む素振りを見せてから、竹内君は怖ず怖ずと問い掛けた。それはローズとの関係にも並んで、昨今の彼にとって意識して止まない人物について。ここ数週間という期間で、いつの間にか頭の中を多く占めるようになったモヤモヤの原因。


「それって西野も同じなんですか?」


「いいえ、違うわね」


「そ、そうですか……」


「というよりも彼は別格。私が彼を動かそうとしたら、頭を下げるしかないわ」


「……あの、それってどういうことでしょうか?」


「ローズちゃんとは比べ物にならないくらい優秀ということよ」


「…………」


 上手いことはぐらかされたような気がしないでもない竹内君だ。しかし、そうして語るフランシスカの表情が、どこか得意げに感じられた彼は、きっと本当のことなのだろうと受け取ることにした。


 問題のフツメンが当初考えていたよりも高スペックであることは、今となっては彼も理解していた。あいつも毒が出せるのか? とは数多浮かんだ疑問の一つだ。しかし、空気の読めるイケメンはこれ以上、質問を重ねることは控えておいた。


 今なら海外旅行での一件も納得できる竹内君だ。


「分かりました。お姉さんに協力させて下さい」


「あら、素直なのね? ローズちゃんにも爪の垢を煎じて飲ませたいわ」


 竹内君の返答に対して、フランシスカはニコリと笑みを浮かべてみせた。


 その姿を目の当たりにして、彼はドキリと胸を高鳴らせる。どれだけ竹内君がイケメンであろうとも、異性に慣れていようとも、それは国内に限った話だ。スタイルのいい白人美女をすぐ正面に眺めて、彼は気分が高まるのを感じていた。


 そして、彼はどんな時もワンチャンを狙っていく男である。


 自ずと続く言葉も積極的なものとなった。


「それで自分は、これから何をすればいいんですか?」


「これと言って貴方にやって欲しいことはないわね……」


「え?」


「強いて言えば、検査を受けてもらうくらいかしら?」


「あの……」


 しかし、フランシスカから続けられた言葉は素っ気ないものだった。


 おかげで問い掛けた側は拍子抜けである。何かしらアウトローな仕事が与えられるものだとばかり考えていた竹内君だ。その脳裏にはつい一昨日、病院の廊下で格好付けていた西野の姿が浮かんでいる。


「こちらから何よりもお願いしたいのは、貴方の身の上に起こった出来事を他の誰にも知られないこと。ローズちゃんは知っているけれど、それ以外は彼も含めて、他の誰にもバレては駄目なの。分かったかしら?」


「それは西野にも、ですか?」


「ええ、そうよ」


「……分かりました」


「もしも協力が必要になったら、こちらから改めて声を掛けわ。だから、それまではこれまで通り普通に生活を送っていて頂戴。変なことを考えてあれこれ勝手に動かれるのが、こっちとしては一番困るのよね」


「…………」


 自分が期待されていないと知って、竹内君は少し大人しくなった。


 それはここ最近になって芽生え始めた、フツメンに対する劣等感。


「その関係で確認しておきたいのだけれど、貴方の毒は自由に扱えると考えていいのかしら? それとも何か条件だったり、必要な環境だったりが存在しているの? 今のうちにお姉さんに教えてもらえないかしら」


「今は余程のことがない限り、体液が毒になることはありません」


「今は?」


「それがその……」


 フランシスカから問い掛けを受けて、竹内君はこれまで自宅で行ってきた実験について、その成果を伝えてみせた。交感神経が優位になると毒性が増すこと。それでも現在は精液を除いて、ほとんど体液に毒性が発現しないこと。


 更には意図的に気分を盛り上げて、かなり強力な毒を出せること。


 必要であれば実験のデータを共有する旨も含めてのご報告だ。


「ふぅん」


「……どうでしょうか?」


「データは後で指定する場所に送って頂戴」


「は、はい」


「それと当面、性行為は禁止ね。約束できるかしら?」


「ええまあ、相手に怪我をさせたら大変ですからね……」


 イケメンはワンチャンが段々と遠のいていくのを感じた。


 そんな彼にフランシスカは畳み掛けるよう、笑顔で語ってみせる。


「ゴムを付けても駄目よ?」


「……はい」


 向こうしばらく、実験は継続だと心に決めた竹内君である。ここ数週間ほど、女の子といちゃいちゃしていないが為に、イケメンの内側にはストレスが溜まっていた。最後の相手が松浦さんであったことも、彼のメンタルに一筋の陰りを落している。




◇ ◆ ◇




 ところ変わって、こちらは西野が居を構えたシェアハウス。


 フランシスカと竹内君の間で、自身の身の上が話題に挙がっているとは露知らず、彼は自宅のリビングで寛いでいた。ソファーに腰を落ち着けてポテチなど摘みつつ、テレビで流行のアニメを眺めている。


 するとそこへローズが訪れた。


 どうやらお風呂上がりのようで、身体をホクホクとさせている。


 竹内君や鈴木君であれば、中学校への進学前後から、何かと目にする機会も多い異性の湯上がり。しかし、こちらの童貞にとっては慣れない光景だ。シェアハウスで生活するようになってから急に増えた機会を受けて、未だに意識してしまう。


 しっとりと湿ったブロンド。


 上気した肌。


 どこか潤んで思える眼差し。


 その全ては狙って行われている。


 なにかと意識して自らを魅せつけているローズの思惑に、フツメンはまるで気付いていなかった。彼女が彼の生活習慣に合わせて、毎日の入浴をスケジュールしているとは、まさか思い至ることもない。


 おかげで童貞は、否応にも彼女を意識してしまう。


「貴方もアニメなんて見るのね」


「偏見はよくない。これでなかなか面白いものだ」


「あらそう? なら私も見てみようかしら」


 何気ないふうに呟いて、ローズは西野の隣に座った。


 手を伸ばせばすぐに届く間隔だ。


 湯上がりから間もない女体の香りが、フツメンの鼻孔をくすぐる。


「…………」


 同宅の浴室には二人分、シャンプーやら何やらがそれぞれ用意されている。西野が用意したものと、ローズが用意したものだ。そして、後者が用意したお風呂セット一式は、どれもこれも前者の好みを想定した上で、綿密な計画のもとに調達されていた。


 おかげで効果は抜群である。


 爽やかな香りに触れて、自然と西野の意識が彼女に向かう。


「……なにかしら?」


「いや、なんでもない」


 ちなみにガブちゃんは、二人が用意したものを勝手に、日々の気分から使い分けている。これと言ってこだわりは無いようだ。おかげでその湯上がり、意中の相手と同じ香りを漂わせている彼女の姿に、ローズは憤りを覚えることも度々である。


 それならせめて自分が用意したものを使って欲しい、とは彼女の切なる思い。しかし、昨今の二人の力関係からは、その願いが通じる未来が見えてこない。一度は注意したものの、すぐに喧嘩となって敗退を期した金髪ロリータである。


 そうした背景もあって、ローズの体液が混入された西野用意のシャンプーやボディーソープを、ガブリエラは日常的に身体へ馴染ませている。本人がその事実に気付くのは、当分先の話になりそうだ。


「明日からまた普通に学校へ通うのよね」


 テレビを見つめながらローズが呟いた。


 西野もまた、画面を眺めなら淡々と応じる。


「ああ、そうだな」


「その前に一つ、貴方に伝えておきたいことがあるのだけれど」


「なんだ?」


 数日前までであれば、あり得なかった穏やかさである。ローズに答える西野の態度からは、敵意がまるっと消えていた。それこそ二年A組の教室で、クラスメイトと言葉を交わす際と大差ない振る舞いだ。


 その姿を確認して、ローズは勢いよく言葉を続けた。


「貴方は私が妙な下心から、あの子たちの為に動いたと考えているようだけれど、それは全くの勘違いよ? 貴方の大好きな竹内君にも、これといって執着はないの。だから、勘違いだけはしないでちょうだいね」


「……違うのか?」


「これは本人から聞いたことなのだけれど、彼は私に気があるそうよ。ついこの間、告白を受けたわ。けれど、私は彼にこれといって気がないの。そうした一方通行なやり取りを貴方が早合点したのであれば、この場で正しておいてもらえないかしら?」


 他でどれだけ勘違いされようとも、この点だけは抑えておきたいローズであった。竹内君の強がりに発して、同じような勘違いから延々と時間を無駄にしてきた彼女だから、二度と同じ失敗はするまいと必死である。


 一方で西野はそうしたローズとの会話に、少しだけ興味を覚えていた。同業者とは言え、自身と同じように学校での生活を大切だと語るローズ。そんな相手とクラスメイトの名前を上げての恋バナは、彼にとって多少なりとも青春っぽい出来事であった。


 今更ながら、病院で竹内君から与えられた言葉の意味を理解したフツメンである。


「そういう下らないことで、居心地のいい空間を壊されるのは甚だ遺憾なの。もしも気になるというのであれば、本人に確認してもらっても構わないわ。だから、今後は二度と話題に上げないでね?」


「ああ、わかった」


 昨日の今日で早々に勘違いを処理したローズはホッと一息だ。


 後は今後の舵取りをどうするかである。


 西野を周囲から孤立させつつ、自分だけが優しく接するという基本的な流れは、今後も継続の予定となる。同時に以前までは不可能であった正攻法も含めて、確実に囲い込んでいこうと彼女は考えていた。


 西野から身内認定を受けてしまった都合上、改めて距離を設けることもない。今後はとことん優しくして、相手の口から甘えが出るまでに、真正面から依存させてやろうと、内心ではほくそ笑んでいる。


 衣食住から下の世話まで、全て浚ってやるとは素直な本音である。


 処女性という己の武器を理解したローズは、今が攻め時だと考えていた。


「ところで西野君、彼女作りは順調なのかしら?」


「…………」


 アニメを眺めるフツメンの頬がピクリと震えた。


 当然、以前から一歩も進捗していない。


「幾度となく相談に乗ってきた手前、このまま貴方を見捨てて自分だけが学校生活を楽しむというのも、私としては申し訳なく思うの。だから今後とも、貴方のサポートは継続していこうと思うのだけれど、どうかしら?」


「……それがアンタにとって何の得になる?」


「あら、まだそういうことを言うのね」


「違うのか?」


「昨晩、貴方が私に対して向けた言葉の意図と、きっと同じことよ」


 フツメンにもフツメンなりのプライドがあるのか、西野はボソボソと強がってみせる。そんな彼に彼女は素っ気ない態度で語ってみせた。続けられた指摘の声は、つい先日、西野からローズに与えられた歩み寄りの言葉を指してのことだ。


 耳にしたローズは随分と驚いたものである。


 未だに信じられないくらいだ。


「……そうか」


「そういう訳で進捗を確認したいのだけれど」


「…………」


 おかげで途端に困った顔となる非モテの童貞。


 その姿を眺めてローズは胸を高鳴らせる。彼の置かれた状況に、何ら進展が見られないことは、彼女もまた理解していた。だからこその問い掛けである。異性関係に困窮する西野の姿ともなれば、何時間眺めていても飽きないマジキチである。


「素直に言うと、芳しくない」


「やっぱりそうなのね」


「だが、決してこのままという訳では……」


「そんな貴方に私から提案があるのだけれど」


 過去に幾度となく異性との接点を作ってきた実績のあるローズだ。結果はどうあれ西野にとっては、決して無視できない存在である。学内においても竹内君と接近したことから、その影響力は上昇の一途を辿っている。


「……聞こう」


 ここ最近はリサちゃんと交流する機会が増えたり、委員長からも優しい声を掛けられたりと、一部では信用が回復しつつある西野だ。竹内君からのライバル宣言も然り。しかし、他の生徒からは依然として一様に嫌われている。


 一度広まってしまった悪評は、そう簡単には収束しそうになかった。おかげでこれといって学内における扱いは変化がない最底辺である。学年を跨いでも、その影響は顕著なものであった。だからこそ、ローズから与えられる機会は貴重なものだ。


「アルバイトなんてどうかしら?」


「っ……」


 そして、彼女からの言葉を受けて、西野は目から鱗が落ちる思いだった。


 高校入学以降は金銭的に苦労した覚えもほとんどない彼である。だからこそローズからの提案は西野にとって、盲点とも言えるものだった。何も労働をして金銭を得るばかりが、バイト先での出来事ではないのだと、思い知らされたフツメンだ。


「そうか、バイトか……」


「私もこの国の文化や風習については、色々と学んだつもりでいるわ。十代の若者の間で学業や部活動と並んで話題に挙がるのが、飲食店やコンビニエンスストアでのアルバイトだと思うのだけれど、どうかしら?」


「たしかにアンタの言葉は的を射たものだ」


 学内での巻き返しが困難であるとは西野も重々承知していた。


 そこで部活動に精を出してみたり、シェアハウスで奮闘してみたりと、あれこれ手を出していた彼である。しかしながら、金銭的には恵まれていた為か、アルバイトという選択肢には未だ至らないでいた。


 海外旅行から戻ってしばらく、ローズに財布を抑えられていた時分にも、金銭を稼ぐのであればマーキスから仕事を受ければいいと考えていた。おかげでアルバイトという単語が浮かぶことはなかった。


 西野の意識がテレビアニメからローズに移る。


 こうなるとキャラクターの台詞も頭に入ってこない。


「私ならバイト先でも、貴方をサポートできると思うのだけれど」


「…………」


 ローズからの提案は非常に魅力的なものだった。


 提案してみせた彼女からすれば、まさか上手く事が進むとは考えていない。職場で持ち前のシニカルを披露した西野が、早々ハブられる姿が脳裏に浮かぶ。これを上手いこと慰めて、学内のみならず私生活に至るまで、自身に依存させんと考えているローズだ。


 嫌われ役を脱した昨今、これまでのように回りくどい手を使う必要もない。微に入り細に入り世話を焼くつもりだ。フツメンのことを甘やかすつもり満々だ。求められたのなら、赤ちゃんプレイだってドンと来いである。


 それと同時に彼女もまた、意中の相手と過ごすバイト生活に胸を高鳴らせていた。部活動では不発に終わったあれやこれやを、バイト先で実現しようと企んでいる。こちらはこちらで屈託した遅咲きの青春を求めて止まない。


 ローズの西野攻略は、ここへ来て大きく加速を狙う。


「どうかしら?」


「……もしよければ協力して欲しい」


「それなら早速だけれど、バイト先を探さないといけないわね」


「ああ、そうだな」


 過去の実績から、少なくとも異性の仲介に関しては、目の前の相手に一定の評価を与えている西野である。それが自信あり気に任せろと言っているのであれば、わざわざ断って独力で進めることもない。


 多少は躊躇しつつも、最終的には頷いてみせた。


「言っておくけれど、ただ女が多いだけのバイト先では駄目よ?」


「それは部活動の選定に際してアンタから学んだ」


「ならいいのだけれど……」


 西野を見つめて不安そうな眼差しとなるローズ。


 彼女の脳裏では昨日のうちから、彼と二人で楽しめるバイト先の選択に意識が動いていた。お金に物を言わせて働き先を抱き込み、自身にとって都合の良いように環境を用意しようとは、現時点で既に決定された未来だ。


 そうした只中のこと、不意にリビングまで響く声があった。


「ひぁああああああああああ!」


 可愛らしい悲鳴である。


 ガブリエラだ。


 西野とローズがいるリビングからは廊下と壁を挟んで、その先から聞こえてきた。やたらと反響した音色から、恐らくは浴室から届けられたものと思われる。ローズに続いてお風呂に入っているようだった。


 一体何が起こったのかと、二人の意識は声の聞こえてきた方に向いた。


 すると直後に続けられたのは、切実な訴えだ。


「冷たっ、冷たいです! いきなり水がでてきましたよっ!」


 これといって現場を確認せずとも、西野は大凡の事情を把握した。


 義手や義足を利用して生活している都合も手伝い、他者よりも寒暖の判断が困難なガブちゃんである。給湯器に残っていたお湯が出尽くしたタイミングで、おもいきり冷水を浴びてしまったのだろう。


 自ずとその視線はローズに向かう。


 その間にも、お風呂場からはガブちゃんの悲鳴が続く。


「あぁっ! 給湯のスイッチがオフになっています!」


 湯上がりから間もなく映るローズの姿を眺めては、それが誰の手によるものか、わざわざ考えるまでもない状況である。真面目な表情から一変、どこか呆れた顔付きとなり、彼はローズに問い掛けた。


「……アレとは仲良くできないのか?」


「一人暮らしの頃の癖で、ついつい消してしまうのよね」


「…………」


 悪びれた様子もなく、ローズはしれっと語ってみせる。


 こればかりは言って聞かせることも難しくて、西野も追求を諦めた。


 ローズにとってのガブリエラとは、文化祭以降、体験学習以前、西野にとってのローズと大差ない関係にあるのだろう。そう考えるとフツメンは、彼女たちに関係の改善を無理強いすることができなかった。

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