第3話 偶然の転機

 しかし、それから数ヶ月たって、また新しいアイデアが浮かんだ。

そのとき私はなにか面白いゲームでも作れないかと思い、チャットの自動生成ソフトを作っていた。

コンピューターを相手にチャットをするソフトは文法解析を行わなければいけないのでもう作るのは諦めていたのだが、人のチャットをのぞき見する感覚で、チャットの文章を自動生成するのは結構簡単だと思った。

チャットの典型的なパターンを用意して、それがランダムに展開されるように作ればいいだけなのでそれほど難しくはない。

会話のデータを上手くデーターベース化することが出来れば、あとはプログラムは簡単だった。

すぐにチャットの会話を自動生成するソフトは出来るにはできた。

だが面白いソフトかというとそれはまた別の話だ。

あれこれ工夫はしてみたが、そこそこ面白い会話は生成できるものの、ゲームとしてそれほど面白いものでもなかった。

一度動かしてみればそれっきりで、何度も動かそうと言う気にはなれないソフトだ。

それではゲームソフトとしての面白さは何もない。

結局このソフトもまた没にするしかないと思ったが、私はもっといいアイデアを思いつた。

チャットの自動生成ソフトをそのまま、小説の自動生成ソフトに転用できないかというアイデアだった。

チャットの生成ソフトは、チャット文章のデーターベースを内部で抱え込んであり、そのソースコードは、チャット文章のシナリオから生成するよう作ってある。

チャット文章のシナリオの代わりに小説のシナリオを使ってみたらどうだろうかとふと思いついたのだ。

私は、以前作って没になったテキストアドベンチャーゲームのシナリオをチャット文章にカットアンドペーストで書き込んだ。

そして、チャット会話用のデータベースに変換してプログラムを動かしてみた。

できあがった文章はどうにかこうにか小説らしい雰囲気の文章だった。

私はその文章を見てこれならいけると思った。

とりあえず手を入れるところをいくつか直してプログラムを一応仕上げてみた。

まだまだ未熟だったが、私にとっては最初の成功だった。

私は今までの失敗をもう一度振り返ってみた。

いままで何度やってもうまく行かなかったのは、小説を生成するプログラムを直接コーディングしようとしていたためだったのだ。

小説記述言語を作成すれば作業手順としては遠回りになるが、今度はうまくいきそうだと気がついた。

だが小説の自動生成ソフトがそれですぐに出来るとは思えなかった。

この方法では確率モデルを使った方法に比べて、きわめて簡単な構成の小説しか生成できないのは最初から判っていた。

シナリオ記述言語を使ってシナリオを記述するというのは、アドベンチャーゲームのシナリオ記述言語と同じ方法だ。

アドベンチャーゲームの選択肢を自動で選ぶような小説しかこの方法では生成できない。

一般の文学作品や、推理小説や、テレビドラマのシナリオのような複雑な物語はどう工夫しても生成できるはずはない。

だが私は上手いことを思いついた。

女の子の一人称の体験告白小説なら文章も下手で良いので、生成は簡単に出来る。

これは確かに作ろうと思えば作れるソフトで、まったくの夢物語ではない。

それでほかのソフトの作成は切り上げて、小説記述言語の作成に全力を注ぐことにした。

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